こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
自転車では、ありえない速度を記録している。
下りだとはいえ、時速百八十㌔で爆走していた。怖ろしく襲いかかるコーナーをうねるように駆けぬけていた。
後方からは春日の嬉々とした笑顔を運ぶヘリが追いかけている。
素直式、この春日の自転車はハンパねぇー。時速百二十で駆けても、へんな挙動ひとつもおこさない。しっかりとしたサスペンションが路面を引っ掻くようにして速度を増していく。
硝子ごしに垣間みえる春日の姿は、スカートがひるがえりまくっていて、綿のショーツが見え放題だ。
「てめコノヤロウ。春日ぃ! ぜってー逃げ切ってやるからなー」おもわず口にした。
「おーい真一ぃ。パンツ見えてるか? 真一にしか魅せないから心配するなよー」
不敵に笑った春日の笑顔がすぐに引っ込んだ。むずがゆい照れたように唇を波打たせ、無表情に俺を眺め見る。
マジでかわいいっす! 心の中で反芻。ぞくぞく……あまりの春日のかわいらしさに、背筋から首元にかけて鳥肌が這った。
「うっせー、お前は俺の趣味を抉りすぎんだよ! 逃げる気、失せんじゃねーか」
俺がいい放つと、春日は嬉しそうに鼻頭をかいていた。おめぇ、なに照れてんだよー春日。
すると金田――バッドだねヨシオ君初期型――バイクのハンドル中心部の液晶画面に文字が浮かび上がってきた。
――エマージェンシー――
なぬ? 白背景の液晶盤にサーモンピンクの文字が点滅する。そして、ヨシオ君《バイク》から機械音が。
「マスター、危険っすよ。上空のヘリにロックオンされました。これは気持ちよく死にますね、無理そっす。マスター、初対面ですがお疲れ様でした」
「あー! うぞー。ヨシオ君イキナリなにいってんの」
「マスターよく見てくださいよーお嬢様のヘリ。主砲っぽいのがコッチ向いてるでしょう。これは爆破しかないっすね」
ヘリコプターの下腹部に装備された筒状の物体が、コチラに向かって威嚇している。
「うっ、砲口がキラリと光りやがった。春日の眼鏡も光りやがる」
これは本気でヤバイと感じた。春日の、あの、悪戯にほくそ笑むあの顔。
――お前、殺《や》る気かっ。
「何とかしろ! ヨシオ君」
「ヨシオクンって、まーいいですけどぉー。素直式電動自転車。通称金田バイクですが、兵器が常備装備されています。いまから液晶に表示させますから、ちょっと待ってくださいね」
画面に、兵器の選択画面が。しかし、なんだ、この選択肢は? 画面上部に「春日のお薦め!」、下部に「ランダム各種兵器」となっていた。
おい! なんで、まともに武器が選べないんだよ!
「マスター。ヨシオ君からは「春日のお薦め」をおススメしますよー。「ランダム各種兵器」は止めておいた方がいいですね。シャレになんないっすから」
「なんだそれ? でも「春日のお薦め」だったら街が無くなるぐらいえらいこっちゃ~、になるんじゃないのか」
「マスター。……お嬢様を侮ったらいけませんよ。ランダムルーレットは、街が無くなるぐらいで済むんでしたら、なんぼかマシですぜ」
「どうなるんだよっ、ヨシオ君! 春日のお薦めよりエグいルーレットって、想像がつかねー」
前方から街並みが飛び込んできた。山の頂にある学園からの下りは終了する、時速百八十㌔のまま大通りに入り込んだ。ここから市街戦に突入する。
見上げると、春日が搭乗しているヘリは高層ビルを縫うようにして突き進んでいる。
ゴーゴー、大気の壁を破るようにして突っ切る金田バイクは、刺さるような強風が耳をかすめる。
上空から、春日が拡声器で叫んだ!
「あーあー聞こえますか、聞こえますか?」
一瞬、呼吸に溜めができた。
「真一ぃぃぃ! そのお父様の金田バイクから熱エネルギーが検出された。そのAIからも聞いているともうが、私のことを想って春日のお薦めにしておいてくれ」
「うっせー! やられる前にやってやるよ!」
俺は躊躇うことなくボタンを押した。ランダム各種兵器のボタンを――
「全員退避~! たいひぃぃぃ! 黒服! 後の処理は頼む。そうはいってもどうしようもないが」
拡声器を通して春日の悲痛な叫びが届いた。
ちょと待て。そんなに……春日があそこまで焦るようなことなのか?
上空を見上げると、ヘリから無数の黒服たちと白衣の技術者たちが飛び降りていた。パラシュートを担いで落下傘している。
「マジで! そうなにやばいのかよ! ヨシオ君!」
「ヤバイもなにも……液晶画面見てくださいよー」
食い入るように見た。液晶画面には円グラフのような画像が映し出されていた。円の中央に「素直式」とピンクの可愛いフォントで描かれている。その周りを四分割されたマスがあって、そこを高速でカーソルが回っていた。
「別にヤバくないやん」
「中! 中ですって! 中の兵器を見てくださいよ。やばいっすから」
ぱっと目に入ったのは、大陸間核弾頭ミサイルの文字だった……行き先は「北朝鮮orアメリカ合衆国」。そこもランダム。ランダムなのか!
うごっ! 血の気が引いた。さーっと背筋に冷やりとしたものが。
しゃれになんねー。
「いやーなんとか! なんとかしろ!」
「何とかしろってもね。だからマスターいったじゃないですか……」
「いった。確かにいった。でもね、でもね、こんなことになるとは思わなかったんだよー」
ぐるぐる回るよカーソルが! 核弾頭ミサイルでも十分インパクトがあったのに。あと三つも兵器があるのかよ。
もう、俺、見えない。見れない。タツケテー
「ヨシオ君……あと なにがあるの? もう僕みれないよ……教えて、ね? ね」
「……えーっとですね、マスター。
一つ目は素直式地殻操作システム。これは大陸プレートの真上に設置された装置で、故意的にエネルギーを加え強制的に地震を発生させるものです。確実に島国は大波にやられて沈みますね。
二つ目、素直式衛星レーザー砲「神の玩具」通称――春日の悪戯――ですね。まーいわづもがな、目標はランダムです。世界各主要都市に発射されますです、はい。一発で蒸発、焦土と化しますね。
三つ目は――」
そこでヨシオ君を遮った。
目の前でぐんぐるぐんぐる、めざましくカーソルが高速回転している。
どうしよう……。まずいってもんじゃ――ない!
俺は尋ねる。うかがう。ヨシオ君……っと。
「ねえねえ。止める方法は無いの?」
「あったらこんなに焦ってませんよー。これでも努力はしてるんですよ。ほんとに。このルーレット……時間がきたら自動的に決定されることになってるんですよ。ほら、マスターいまだ回転してるでしょう。そういうことです」
ヨシオ君が内部で兵器選択を決定にならないように操作してることだった。
考えろ俺、考えろ! 何かある、何かあるって! 今日は考えてばっかりだった。
「あーもう!」
そうだ――兵器っていってもこの金田バイクから攻撃するわけじゃない。遠隔操作だよな……。
「ヨシオ君。こっちから信号を発信して兵器を発動させるんだよな。そうだよな!」
「そうっす」
「じゃあどういう段階を踏むんだ? このバイクから直接兵器に対して信号を送るのか?」
「いえ。違いますマスター。一度素直市の地下に配置されている素直式スーパーコンピューターに信号を送って、そこからケーブルにて電波塔に送ります。そして電波塔から各装置に信号を送ります」
みえた! できるかわからんが、まだ何とかなるかも!
「よく聞いてくれヨシオ君。その地下に埋まってるスパコンにアクセスして信号を替えろ!」
「無理ですよー。素直式スパコンはワタシの数億倍あたまがいいんですから。相手にされませんよー」
「ただの機械じゃないのか?」
「結構、春日お嬢様のマシーンはAI搭載された自己判断マシーンが多いんですよ。ワタシもそうですし、スパコンもそう。そりゃー相手にもされませんよー」
嗚呼。春日の性格がでてるな。
同い年っつっても可愛らしいお子ちゃまだから……。人と環境が違うから友達もいないだろうし、心を開くことができるのは黒服だけかもしれない。
過度のマッドサイエンティストの春日は、無意識に友達や人格が欲しかったかも。だから機械にAIを与えたんだ。
って言ってる場合じゃなーい!
「しゃれになんねぇぇぇぇぇぇえええええええ! はるひ! はるひ!」
「あああああ、落ち着いて下さいよーマスター。ハッキング――スパコンをハックできれば勝機があります!」
――おおおおおお!
「でかした! ヨシオ君」
「だもんで問題があります。先ほど申しましたとおり、スパコンに喧嘩を売るほど実力はないです。まー返り討ちにあって削除されるのが落ちですね。で。真一様にお願いといいますか、ほぼ強制的なお願いがあります」
それって命令じゃん。ヨシオ君。
「春日お嬢様からパスワードをききだして下さい。そのコードがないと、スパコンに防衛されて……ワタシは消されてしまいます」
上空を見上げた。そして春日を探した。ガラス越しにヘリがみえた。パラシュート部隊がおおかた出払った様子だった。列をなしてパラシュートが開いている。
春日はどこだ。どこにいるんだ。
「おーい春日ぃ!」
俺は咆えた。市街地のメインロードを金田バイクで直進。後方からヘリが追いかけてきている。距離は無差別兵器を警戒してか、離れている。位置としては、ほぼ真上でホバリングしている。
「ヨシオ君。マイクあるか? 春日に声を届けたい」
「ちょっと待ってくださいよー」
ヨシオ君がそういい終わる前にマイクが現われた。ハンドル中央に設置していた液晶パネルが反転してマイクが登場した。俺はそのマイクに向かって呼びかける。
「おい春日ぃぃぃ。話がある相談だ、相談」
あたりの大気を震撼させて、スピーカーから相当の量の音声が流れた。
ヘリの中からひょっこりと春日は顔を出した。その後は黒服に抱えられて春日が出てきた。
接地を支えるヘリのポールに足を掛けた黒服に抱きかかえられた春日。髪が横に流れている。
ニヤリとほくそえんだ黒服が拡声器を口に当てた。
「真一様、大体なんのボタンを押したのか、は察しがつきます。例のボタンですよね。真一様の気持ちは痛く理解できます。そうですよね、私も真一様の立場でしたら押していたでしょう。わかりますとも。
お嬢様はむしろ関心しておられます! さすが真一様だと、マッドサイエンティストの旦那様になられる資質は十二分《じゅうにぶん》にあられると、心弾ませておられます。
例のスーパーコンピューターのパスワードコードですよねー。春日お嬢様から条件がございます!」
いい終わると、黒服は春日の口に拡声器をあてた。
すでに黒服が意味深な笑みを浮かべている。嬉しそーだ。なんだ、なんの含み笑いなんだ、黒服。
さらにグっと親指を立ち上げる。
え? もしかして俺、詰んでるの?
「愛する真一様。わたくし、素直財閥末席、素直春日は一生をかけて貴方に生涯伴侶としての忠誠を誓います。その破滅的な勇士、絶対的な存在感、瞬時の判断力。帝王《カイザー》真一様……私を女にして下さい。条件などではございません。お願いです、真一様。貴方の傍から離れたくありません……既成の事実でもいいのです、その傷痕さえ持っていれば貴方を常に感じられます。
この市外地を抜ければ海に出ます。浜辺で合流致します。カイザーそちらでお待ち下さい」
……なんだこの展開。はぁはぁ、春日がいじらしくおもえる。性癖を抉るところか、春日を幸せにしてやりたい――
黒服が涙を流しながらうんうんと頷いている。
なんだか俺も涙が……
春日の表情一気にこわばった。一瞬なにが起きたのかわからなかった。いきなり春日が叫んだ!
「黒服! さっき話したように行動しろ! 落下傘している技術者も含めて、素直財閥研究所の全総力を挙げて例の作戦に取り組め。所要時間はきっちり三十分。
安全を期してヘリは廃棄する。百二十秒、残るオペレータはすみやかに退避。
黒服、脱出準備はOKか?」
「お嬢様。準備は万全でございます」言って黒服はランドセルのようなものを背負った。
不意に黒服に呼ばれる。
「真一様! パスワードコードは「SuN@O.H@LUhI」でございます。カイザー真一様もお気をつけて!」
黒服に抱かれていた春日が黒服にすがりついた。
そして跳んだ――
「離脱!」
春日の咆哮とともに、春日を抱きかかえた黒服が宙を舞った。
「春日! 黒服!」
俺の叫び声が聞こえたのか、春日と黒服が笑みを浮かべたような気がした。
自由落下。一気に落ちていく。すると、黒服が背負っていたランドセルのようなものの下部から青白い炎が吹き上げた。ジェット噴射か? 春日を抱えた黒服の身体がふわっと浮いた。そしてゆっくりと、緩やかに下降していく。
そうして先に見える浜辺へと突き進んでいった。
「真一様ぁ、後はうちらっす。スパコンへのハッキングが残っていますよ」
「そうだったな……」
ヨシオ君が俺を現実に引き戻した。
「相手はワタシの数億倍のデータバンクと知能を持つスパコンですからね。いくらパスワードコードで安全に進入しても、その先の保障はないですよ。色々問題がありますし……
春日お嬢様がヘリをお捨てになられたのは、そういう問題からです」
「ちょっと……まだ問題があるのか?」
「まあ……」
ハンドルのマイクが反転し、液晶パネルが戻ってきた。いまだぐるぐるとカーソルが高速回転してた。
- 2008/04/04(金) 21:14:08|
- 短編作品|
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