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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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素直春日お嬢様 六話

 ヘリが墜落していく。時間にしてきっちり二分した頃だろうか、へりに乗り込んでいたオペレーターが脱出した。
 いまだ動力を維持したヘリが雲を縫うようにして地上に落ちる。ときたま浮上を繰り返すヘリは、波飛沫《なみしぶき》に煽られる遭難者のようだ。
 俺は大通りを爆走して、この先に臨む海岸へ向かっていた。
 大気の壁がぶちあたる。弾丸のような風がアクリル硝子を響かせていた。
「いや、カイザー……。なに黄昏てんすか? ぜんぜん終わっていませんよ。むしろこれからっすやん」
「もういいじゃん。これから海にいって楽しく遊ぼうよ。お前もハイオク入れてやるからさー」
「うち電動自転車っす。ハイオク無理! 入れるところないっすよぉー。現実に戻ってくださいカイザー。おもいっきし兵器の抽選が行なわれてますって」
「あぁ。まあね」
 正直に、無かったことにしようかなーなんて。……おもったっていいじゃん!
 だって、一般人の想像を、遥かに凌いじゃってるもん。もう、ね――春日と砂浜ではしゃいで、その後に回転寿司とか食べちゃって、黒服と春日と喫茶店で珈琲ブレイクとか甘い幻想を抱かせて欲しい! 切に願ってるんですよ。
「んで? この後、どうなるの?」
「もう、カイザー。そんなに苦ったタルい顔しないで下さいよー。めっちゃ泣きそうじゃないですか」
「ホント、泣かせて。おうちに帰りたいの」
「しっかりして下さいよ! 春日お嬢様を操《あやつ》れるのはカイザーしか居ないんですからぁー」
 上空より、ヘリに乗った春日に睨まれつづけた緊張から解き放たれた俺は、芯が折れて弱気になっている。
「それで、先ほどの説明ですが――」
 と、ヨシオ君。どうしようなもなく、俺を現実に引き戻した。
「諸々のセッティングは完了いたしました。あとは天命を待つのみぞ、こんな感じっすね! 成功確立は半々。正直どう転ぶか、うちもわからないっすね」
 おい……。パスワード手に入れたから無問題! ノーモンダイじゃないの?
「失敗するかもって、ヨシオ君。なんでっ?」
「カイザー。時間がないんで、このランダム破壊兵器の処理が終わりましたら、ゆっくりと説明します」
「おいおい! ヨシオ君! まだ、まだなにかあるのか!」
 そうだ。液晶盤には、いまだルーレットが回りつづけている。カーソルが止まったら確定して発射になる。
 ……忘れてた。いや、全力で忘れたかった。
 どうしたらいい、俺はどうしたらいいんだ。
「ヨシオ君。わかった。覚悟を決める。やってくれ、おもいっきりやっちゃってくれ!」
「急に素直になったっすね。さすがカイザー頭の回転早いっす。わかりました! 幾多の可能性を計算してマクロを組みましたから、本当にあとはスパコンの出方次第になります。これからカイザーにはホーンを押していただきます。カイザーの作業はそれだけです」
「わかった――。これだな、これを押せばいいんだな」
 ハンドルの手摺の根元にボタンがある。丁度、親指で押せる場所だ。ふるふると震える親指の先端に力を込める。
「GO! GO! カイザー!」
「うっせー!」
 押した。押し込んだ――
 なにが起きる。これからなにが起きるんだ。
 金田バイクから超弩級のホーンが咆哮した。
 ――フィーヴァァァァァアアアアアアアア! 777番台。確立変動ノーパンク、フィーヴァースタートおめでとうございます――
「なんでパチ屋! 確変掛かってるし」
「いやー。お父様は無類のパチンコ好きなんっす」
 液晶画面が発光した。……真っ赤に染まる。
 俺はそのまま画面が消えるとおもってたから度肝を抜かれた。ってオーイ! 兵器確定してんじゃん!
 なんだ。なにに決まったんだ。ヨシオ君どういうことなの? いやぁぁあああ。
 見た。見た。見た。液晶。みた。点滅してるぅー。兵器の場所でカーソルが点滅してるって! 何? 何? なんなの? 兵器は? 何? どれ? おい! 回避できなかったの! ヨシオ君。もう義男君! yosio君ってばぁー。
 返事が返答が、ヨッシーはなんも言わない。NO! ヘブン! 決まった。決まっていた。兵器確定のお知らせ。
 ――神の玩具♪ 春日☆悪戯――
「ギャース! おまっこれっ、各国に宣戦布告してんじゃねーか! KITA●鮮かっG7入りかっ」
 次に画面が切り替わり、世界地図が表示される。下部に各国の主要都市、百二十都市がナンバーを打たれてずらっと並ぶ。最下部に二桁三桁の数字が高速で切り替わっている。
 こっこれは。ゲームメーカー光栄時代の得意な表示。
 そんなことよりも、「どれかキーを押してください」の表示が怖いよ。ピンクと赤に点滅してる。
 上部に残り時間が表示。時間にして三十秒ほどだった……。
「のあーいやー」
 勘弁! 勘弁! おしっこちびりそう。むしろでた。
 もー見るのやーんぺ! しーらないっと。ある……あるよねー。こんなことって結構頻繁にあ――
「ネーよ! ねーって」
 ヨシオ君、なんで無視するの? 冗談っていってよ、いってーさ。ぴーぴよぴよ、ぴーぴよぴよって言ってーな。
「嘘だといってよぉバーニィ」
 全身に寒気が。背筋が凍る。残りタイムが十秒を切った。
「NASA! そうだ。NASAがこんな暴挙、黙っているわけがない。素直財閥の暴挙を見逃すはずがない! ぜってー止めに入るからぁー」
 俺の叫び。しかし誰の返答もない。もう時間が迫っている。来る、タイムリミット。そしてタイムアウトがぁ。
 4――3――2――1――
「素直財閥科学研究所はNASAに対して技術提携と四割の出資をしていますんで、多分NASAは見逃しますぜ。カイザー」
 ぼぞっと電子音が聞こえた。
「ヨシオ君? その声はヨシオ君なの?」
「スパコンからの反応が薄かったので、ちょーっと焦ったっすけど……成功しました」
 おおおおおー。よかった! 耐えたぁー俺ぇS級戦犯にならずに済んだ。済んだんだよ!
「よくやった! ヨシオ君。ガッ! ジョブだ」
「正直……数億倍のスペックを持つスーパーコンピュータ相手に、よくやったと自画自賛っすね。まぁ、お父様直属のマシーンなんで手玉に取れたようなもんですから」
「どういうこと? ヨシ――」
「それよりも、です。カイザーあとの処理お願いします!」
 ヨシオ君が俺の声を、ばっさり上から掻き消した。あとの処理って……。
 液晶画面が変化して、中央部に文字が表示された。かすかに記憶のある言葉だった。
 これが選択された兵器? 冗談みたいな表示だった。
 叫び声が突如あがった。ヨシオ君のテンションマックスの電子音。すげーこんなヨシオ君、はじめてー。
「ハーイ。こちらヨシオでぃーす。やってやったぞこんチクショウォ! これからお送りするカイザーアンドヨシオーズチョイス、ジ、ウェポン! 九年の沈黙を打ち破り登場する初期型素直式兵器。レッツショータイム!」
 金田バイクの後輪が変形して、数千のバルーンが放出された。足元にあるステップが百八十度反転。両サイドにあらわれたのは、紅藍黄の三色レンズ。そこから接写《せっしゃ》された映像が空中に。子供、女の子。ひらひらのアイドル衣装に身を包んだ幼少時代の春日が映し出された。
 見た目はいまとそんなに変わらないが、現在にない無類の無邪気さがそこにあった。そして少し恥かしそうに、照れながらはにかんでいる。あー持ち帰りたい……。
 さらにアクリル硝子に半透明の文字で「愛をおぼえていますか」が浮き出てきた。
 これは……。

 ☆

「カイザー! セリフっセリフー」
「えっ? そっからやるのぉー」
「画面に台詞が表示されていますから、棒読みでもいいからはじめちゃってください」
「これってマクロス劇場版じゃねーか!」
「そうそう」
「そうそうってお前。こんな恥ずかしい台詞、言ってのか! わーったよ。えーっと……しかも、ここからかよ」
 誰がわかるんだーこのネタ。俺は画面に表示された文字を叫んだ。
「先輩だって柿崎だってみんな死んじまったんだ。やりたいことだっていっぱいあったろうに」
「かっかっ、カーキーザーキー」
 いきなり電子音。それ柿崎が出てきた瞬間、墜ちたシーン! 「ヨシオ君うっせーよ! なんで素直式兵器がミンメイアタックなんだよ!」
 そうなんだ。あの時――春日☆悪戯――から画面が切り替わって、設定された兵器が「ミンメイアタック」だった。ありえねー。ヨシオ君も柿崎ぃーとかいっちゃってノリノリだし。
 くっそー。でも、しょーがねー。核がどこぞに落ちるよりはよっぽどマシだぁ。
 えーとつづきは……と。
「君はまだ、歌がうたえるじゃないか」

 春日が待機する。ホログラムに映し出された幼い春日は、両腕を後ろにまわしている。つま先をこつこつと叩いてリズムを取っている。そして口づさんでいる。
 ――ワン、ツー、スリィー、フォー。ワン、ツー、スリィー、フォー。
「あっワンツー」
 イントロが掛かった、超時空要塞マクロスの曲。リン・ミンメイとこ素直春日が歌う「愛をおぼえていますか」。
 春日が身体いっぱい使って腕を振り上げた。全身でリズムに乗った。左右に身体を振っている。
 ここでヨシオ君の音声が入った。カラオケ状態のままAメロに突入! 春日が片手を前に押し出し、ニコリと笑う! AメロBメロに乗ってヨシオ君の解説が炸裂する!
「超時空要塞マクロス劇場版。ストーリィーは割愛。最終局面!
 宇宙軍戦艦三十、ゼントラーディ軍戦艦七十、両軍艦載機合わせて千二百。敵「素直財閥科学研究所ヘリコプター」に向かって突入!
 各戦艦は敵索レーダーを搭載、ヘリの弱点を分析して艦載機に通信。よって艦載機は回旋する二枚の羽根に対してミサイルを集中放火。撃破を狙う」
 的確な解説を披露するヨシオ君。よくわかる内容。このくすぐる展開、春日のセンスに脱帽です。
 解説が終了とともに、サビに突入。
 あふれるほほえみ。真剣な眼差し。素敵な春日。マイクを口元にそっとそえて熱唱する!

 おぼえていますか? 目と目が合ったとき。
 おぼえていますか? 手と手がふれあったとき。
 それははじめての、愛の旅立ちでした。
 I Love song
 もぅひとりぼっちじゃない、あなたがいるから。

「キタキタキタ! きたぁー」
 ここで春日の映像が反転。ホログラムで擬似化された巨大スクリーンがうちっかわに反り返り、春日フェイスのアップに替わる。真面目な面持ちで、切なく歌う狂おしいほどの春日のメロディ。
 そのスクリーンの前方に数千の艦載機が一気にミサイルを撃ち込んだ! 
 一斉にミサイルを発射。各艦載機から一閃のミサイル。それが分離して六発のミサイルが火を噴く、さらに分離して八発のミサイル。一機のミサイルから6*8=48発。全艦載機1200*48=57600発。計五万七千六百発の弾丸が大気を刻むように宙を舞った。
 360度――全方向から、ヘリめがけて火花が散った。
 一瞬――空がオレンジ染まった。刹那、ヘリを取り囲むように灰色の煙幕が空を覆いつくす。はじける快音。濃度が薄れた煙幕の下部から、ヘリは崩れ落ちるように顔を出した。
 二枚の羽根は、くの字にへしゃげている。装甲は剥がれ、骨組みがむきだしになっている。
 雄叫びをあげるように黒々とした煙硝をまきあげるヘリは落下。
 ある一機の艦載機は――最期を見逃さなかった。

 もぅひとりぼっちじゃない、あなたがいるから。
 はぁ……ん。はぁ……ん。

 甘く切ないヴォイスで歌いきった春日は、息を切らせて肩が上下にゆれていた。
 その凹に反り返った巨大スクリーンの中央に――人型に変形した艦載機が!
 太陽に照らされて、シルバーの装甲が鈍く輝いた。そして人型から飛行タイプの戦闘機に変形。ジェット噴射の朱色の火が噴射口から盛りあがった。大気の壁を突き破り、高速で敵素直財閥科学研究所ヘリに向かって突進した。
 墜落するヘリの上部に停止し、上空からヘリを見下ろす。
 艦載機の各発射口がぬるりと開き、全弾発射! ごりぃ、とへしゃげた羽根の付け根が……へし折れた。そしてもげた。
 無機質に淡々とヘリは自由落下。直後、爆音が轟いた。
「スカルワンよりデルタワンへ、任務完了! これより帰還します」
 金田バイクの液晶に表示された台詞を、俺は感無量で読み上げた。感情を込めた。
 あぁ……春日。俺、じぃーんとキたぜ!
「こちらデルタワン、了解……」
 切なく響く、ヨシオ君のささやきだった。
 ――あたりまえのラブソング。

  1. 2008/04/13(日) 12:25:58|
  2. 短編作品|
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