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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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ゴスィック

 幹《みき》は朝から度肝を抜かれた、意図しているものは何か、と頭を捻った。
 駅の時計台に待ち合わせ、幹は松前《まつまえ》を待っていた。
 幹は高校に入って初めて彼女が出来た。高校になると持ち上がりの小中学からの知り合いがバラバラに散ったので、初対面のクラスメートばかりだ。その中に、形容し難い美しい女の子が居た、松前だ。線の細い顔立ち、でも笑うと、小学生のように幼くみえた。怒りを表すと母親のように包み、哀しみの表情を浮かべると大人の女性のように大人びていた。コロコロと表情を変え、それが幹に、とても魅力的に映った。しかしそれは、松前の当たり障りない一面に過ぎなかった。深く松前の内面を知れば、当たり障ったのだ。それを幹は、知らずに付き合い始めてしまっていた。
 時計台が九時をさした。時計の上部が開く、中から音楽隊のギミックが現われた。そして行進曲を奏ではじめる。本日デートする約束の時刻。蝉が羽をなびかせて鳴く。夏の陽射しは黒髪を焦がす、そしてアスファルトの照り返しで二重に熱く、じっとりとした熱風が湿気と共に幹の顔に貼りついた。夏休みに入った初日、さっそく松前と遊びに行くことになっていた。
 そして幹は、アスファルトから立ち上がる熱気に揺らいだの松前の姿が目に入った。フリルの付いた襟のホワイトブラウス。ダークレッドとブラックのネクタイ。黒味を帯びた、グレーのブロックプリーツスカート。透明がかるホワイトハイソックス。ダークブラウンのローファー。真赤なペンキに彩られたレザーのチョーカー、先にはベル型のシルバーアクセサリー。前髪が直線に切り揃えられ、ショートボブ。ホワイトのカチューシャ、先端に十字架が飾りとられている。属に言う松前の姿はゴシックロリータファッションだ。
 松前は幹の姿に気が付いて、嬉しそうに手の平をグーパーグーパーと振っていた。松前は汗一つかいてない。
 本日のデートは目的があった、幹はゴシックロリータの恰好した松前を、細部に渡りマジマジと見入ってしまう。
「松前。今日どこに行くか解って、その恰好だよな」
 幹は薄っすらと細目で窺った。松前は満面の笑みを浮かべる。
「幹さん幹さん、頭もみて下さいよ、緑っぽいでしょ」
「まあ、確かに緑だけどさぁ、二学期始まる頃には結構な茶色になってるぞ、それ」
 松前の前髪を弄びながら、幹は呟いた。綺麗に脱色した髪に緑のヘヤマネキュアが入り、鮮やかに染まっている。松前は、やわらかくその指を掴んで目尻を和らげた。
「その時は黒入れるから大丈夫でしょう、多分。それよりも、幹さん、どお? 擡《もた》げたでしょう? この穿《うが》った様相のファッション」
 そして松前は、くふふ、と幹から目を逸らし含み笑った。見るからに、してやったりの松前の表情に幹は、身体から力が抜けていくのがわかった。
「受け狙いが、松前をそこまでさせるんだな」
 付き合い始めて二ヶ月、幹は当たり障った内面の松前にもう慣れていたと思ったが、まだ実力の全部をみせてはいないと呆れた。幹自身にも、松前にも、だった。
「受け狙いというよりもですね、幹さん――」松前はまじまじと幹に向けて、瞳を見開いた。
「愛情の進化系が従《と》にあると思考する訳ですよ。中世ヨーロッパの階級制度的発祥のメイド、その発展がゴスィックロリィタにある訳なのです。主人、上流階級のお方に仕えることはメイドの至福の喜びとなる訳で、あー確かに下級階級の代々メイド家系はそうでもないけれど、しかし昨今の、近代もしくは現代の貴族階級、奴隷制度、一種の催眠的なイデオロギィーを廃した情勢においてメイドに属すということは、即ち主人に仕えてこその充足を得、至福の喜びと定め、己の存在に価値を見出していると、偏った着眼点で断言していきましょう」
「結論は? 松前」
「幹さんが気まぐれて、意味も無く虐《しいた》げて下さい」
 幹は眉間の縦皺を揉んだ。呻いて、幹は聞く。「極論は?」
「幹さんの胎《からだ》に浸たりたい」
 一呼吸ついて幹は、さらに目頭を親指で押し込んだ。
「今日のデートは、山へアスレチックしに行くんだったよね。で、松前。何でそんな恰好しているんだって聞いているんだ、ケド?」
「えー! 幹さん、さっきの話しはまるで無視ですかー、ありえないですよ」
「聞こえたが、聞こえなかったことにする。勝手に松前に浸られても困るしな。それに……幹さんの情熱で溺れ死んでしまいました、溺死ってやつです、とか言い出すだろ」
 幹に無視をされて口を尖らせていた松前は、幹のその言葉に反応して唇を横に波打たせた。悪戯っぽい笑顔を幹だけに振りまく。
「そう言う自信あります。もうここまで出かかってました」
 そういって松前は栗鼠のように頬を膨らませ、それを指でさしている。幹は何度も松前の頬を突っつきながら、窄む唇からぶーぶーと空気を洩らし楽しんだ。
「で、松前。意図は何? 天然なハズ、ないよな」
 瞳を瞬かせ、松前はいう、
「アスレチックといえば、幹さん幹さん、なんでしょうか?」
 幹は即答で、
「全て制覇」
 と答える。松前は大げさに首を左右に振り続け、幹の腕を取った。松前は取った幹の腕に身体を凭れさせ、肩にあごを乗せて頬ずりをする。幹は、整った丸みを帯びているショートボブの髪に、鼻を押し付けた。
「いやあ、幹さん。山とアスレティックと少女と汗といったら、パンチラでしょう。不安定に縄梯子を掴んで動けなくなったゴスロリっ娘を、幹さんが下から見上げたらそれパンチラ! 先にトンネルをくぐらせて、後ろから突き出したお尻を眺めながら、そうパンチラ! ほえーと阿呆声上げて坂道を転がり落ちていく様は、まさしくパンチラのための遊びですよ。瑞々しい少女が黄色い声をあげて、幹さんに笑顔を振りまくんですよ? 燦燦と陽射しを浴びて眩しいかな指で陽光を遮るのですよ、健康優良児にはすこぶる興奮材料に溢れているでしょう。思わずゴスロリっ娘の身体に貪りつきたくなる衝動に駆られるのは必至。そのための、クウォリティ高いゴスィックロリィタトータルコーディネイトっす」
「松前、いいたいことは解った。そこまで自信があるならその恰好で行くか。まっ、思惑通りに事は運ばないと思うが、それはそれで――」
 言いかけて、幹は言葉を濁した。松前が失敗した時の期待を悟られたくなかったからだ。期待していると、幹自身も認めたくない意地もあったかもしれない。松前の当たり障った内面を受け入れ始めている自身に、困惑としてる自分がいた。面白がっている? 楽しんでいる? 幹は自嘲して、松前に気付かれないように、曖昧に首を横に振った。
「では幹さん、夏休み初日のデート、楽しい思い出にしましょう」松前は握り拳を胸元で掲げる。
「行くぞ、松前」幹は松前の頭を二、三度叩《はた》き、切符売り場へ向かった。


 ☆


「すみません幹さん……暑くて動けません。近くでゴロ寝してますので、好きなだけショーツみて下さい」
「これ、パンチラじゃないぞ、松前。チラッともしてない。」
 このうだる様な猛暑と運動には適していない衣服のせいで、松前は二つ目のアトラクションで挫折した。幹がアトラクションを攻略している最中、松前は芝生に横たわり、スカートをパタパタとはためかしていた。
「そんな松前の姿も、可愛いか」
 途中、チラリと横目で一瞥した幹は二つ目のアトラクションを済ませ、頭を掻きながらそう呟いた。芝生に溶け込んだゾウアザラシのように転がる松前を眺めて、幹は期待通りの結果に満足気に頷いていた。

  1. 2007/05/06(日) 02:31:57|
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