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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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眼鏡1.眼鏡の特性

 1.
 みんみんと蝉が鳴く。教室の中には、学生三人組が机を並べ雑談をする。
 人里離れた山間に立つ高校に、三人の隔たった有名人が居た。学年は二年生で、上級生に下級生に教師。高校関係者に一目も二目も置かれていた。
 クラスは2-C。内容は問わないが、特化してその分野に秀でた学生を集める。悪く言えば吹き溜まりのクラスになる。よく言うのは困難極まりない為、止めておこう。
 戸を開け窓も開けて、少し暖かい風が通り抜ける。少し暑いが蒸さない為に、心地いい環境で三人は熱心に語る。
 その駄目スペシャリストが言うに、高校生の放課後は最も充実した時間と位置づける。少し薄暗くなってきた駄目スペシャリスト戯れる教室で、三人はその充実した時間を堪能している。


 ☆


「と、いう訳で。いいかな?」
 すくっと立ち上がり、コブシを振り上げて眼鏡をひけらかす少年は、目の前の二人に話題を持ち上げた。
「今回。折角の放課後を、俺の為に残って貰ったのは、コレの為だ」
 机の上に先ほど、ひけらかせた眼鏡を無造作に机の上を滑らせる。
 目から青白い炎が浮かび上がりそうな少年。眼鏡に並々ならぬ情熱を持つ漢だ。
 眼鏡を語らせると、地は裂け海は割れると噂され、眼鏡フェイクサーと称される強者(ツワノモ)だ。
 常時ジェラルミンケースの中に各種様々な眼鏡を取り揃え、どのような事態が起きようが、すぐさま対応出来る。眼鏡っ子御用達の、その人物――眼鏡フェイクサーである。
 その上、全てにおいて熱血漢。常に真っ赤な炎(オーラ)を背中に纏い、何か言おうモノなら眼鏡で一撃必殺。眼鏡フェイクサー、その熱いパトスは誰にも負けないと自負する。
「眼鏡か……今日は帰れそうもないな」
 ポケットからハンカチを取り出し、そのハンカチで眼鏡をつまむ漢――通称教授。
 成績は悪いが、無駄な知識を豊富に有する。見たことの無い言葉、単語、固有名詞は教授に聞け。と、学校新聞に掲載されるほどの実績を残す。
 また、友人と世間話をしていると、教授が『それはね――』と口を挟んできた場合。彼に対して『英雄光臨』と、敬意を払うのが当学校のしきたりだ。
「うーん。眼鏡ねえ。僕あんまし眼鏡好きじゃないんだよね」
 机に両肘を突きアゴに手をやり、眼鏡を見つめる彼。上級生の女子に絶大なる人気をはくす、お姉ハンター。
 『ごめんなさいお姉ちゃん』の台詞から繰り出される恐るべき破壊力は、想像を遥かに超える。目前の上級生の女子がいきなり廊下にへたり込み、廊下一面に悶える女子の絨毯が出来上がった。という逸話を残すが、本人は何故そうなったのか? わかってはいない天然お姉ハンターだ。
「ハンター、この素晴らしい眼鏡が嫌いだって……ありえない。俺の人類眼鏡計画の邪魔をするつもりか!」
「だって眼鏡掛けてるお姉さん、怖いんだもん」
 ハンターは、お姉さんwish眼鏡=知的系眼鏡っ子を思い出したようだ。悲しそうに上半身を机に寝そべらせて、雪崩れ込むハンター。それを見た教授は場を盛り上げようと、眼鏡肯定派を演じる。
「ハンターよく聞いてくれ。別に俺はフェイクサーの味方をする訳ではないが、実はお姉さんが掛ける眼鏡は好きなんだ。少し下にズレた眼鏡を、人差し指で通常の位置に戻す仕草は、微量のフェロモンを感じる」
「そうかなあ……なんかね、眼鏡でガードして、一線を引くって感じがするんだよね」
「ほう、彼女等なりのテリトリーという訳か」
 教授はご愛用の眼鏡を光らせ、軽く頷く。共感出来うる要素があるようだ。
 ハンター教授の二人は、一線を引くという部分で納得し、フェイクサーを意見を求めるように顔を向ける。
「無いな。仮にあったとしても、それは仮性眼鏡っ子だ。もしかすると、度が入ってないニセモノ眼鏡だと思うぞ」
「仮性眼鏡っ子ねえ……」
 と教授に言われるが、フェイクサーは少し悲しげに、更に憤りを感じつつ主張を進める。
「そうだ! 仮性眼鏡っ子はファッションか、本当に眼鏡ガードしているかも知れない。がしかし――」
 机上に在る眼鏡をフェイクサーは掛ける。シッカリと両耳と鼻に眼鏡を固定させ、眼鏡の柄と耳の接地点に指差して熱くフェイクサーは吼えた。『ココだよ、ココ!』と。
「真性眼鏡っ子。本当に眼が悪く、風呂と寝る時以外は外さない眼鏡っ子は、もう既に身体の一部分なんだよ」
「眼鏡が、身体のいちぶぅ?」
 身体から、青白いオーラが放出するかの如く熱弁を奮うフェイクサーを横目に、ハンターは不思議そうに小首を傾げた。
「少し解りやすく言ってやってくれないか? フェイクサー。ハンターが解らないみたいだ」
 大体のニュアンスを掴んだようすの教授は、メモを取りながらフェイクサーに告げる。メモ帳には『仮性眼鏡っ子=雰囲気組。真性眼鏡っ子=デフォルト』と書いてある。教授の自分なりの認識に変換して、記憶する辺りが、勉強は出来ないが無駄に知識を有する独自性を、いかんなく発揮する。
「そうだな、教授」
 まるで、地は裂け海は割れ大地を揺るがすように眼鏡を掲げ、ハンターに向かって思いをぶつける。
「ハンター、もう既に身体と眼鏡が同化して、眼鏡という身体の名称なんだ! 顔の部分を挙げていくとするだろ?」
「うん」
「まず眼だ、次に鼻だ。更に口に耳に眉毛に、そして眼鏡だ」
 続けざまに『続きは自分が』と、教授が立ち上がりフェイクサーを静止させ、話しを続ける。
「他に顔の部分的なモノを挙げだすと、眉間に頬。あと額に顎と、諸々あるが――そこは省略して眼鏡は身体の一部になるんだ。そうだな? フェイクサー」
「全くその通り! 教授、解ってくれて嬉しいよ」
 フェイクサーの想いが通じ合った二人は、握手を交わし熱く抱擁し、共にハンターへ顔を向ける。二人の流れる一連の動作は息が合い、二人の眼にハンターの姿が映し出された。青白く燃え上がる炎の眼に……
「ううう、うん。よく……よく解ったよ。ホントに、うん。ホントに」
 慌ててハンターは理解を示す。実際はどうか解らないが、ハンターが言うにはそうだろうと二人は納得し、席に着く。
 たかが眼鏡、されど眼鏡。フェイクサーと教授は、眼鏡単体に付属される女の子について議論を繰り返す。やれツインテールに眼鏡はマニアックだとか、やれツンデレに眼鏡は必要ないだとか、素直クールは眼鏡、巨乳、トラウマ持ちがデフォルト。など、素直クールに関しては眼鏡と言うよりも、素直クールについて議論し始めていた。



 2.
「うっ、つまんない……つまんないよ」
「おいハンター何処にいくのだ?」
「おい俺の眼鏡返せ! ハンター」
 教授は眩く、そして鈍い光を眼鏡から放ちハンターを気に掛ける。フェイクサーは『ちょー眼鏡もってくなよー』と机にヘタリ込んだ。
 ハンターは盗んだバイクで走り出すように、たたた……と擬音を立てながら教室を飛び出して行く。
「しまった。ハンターはツンデレが嫌いだったのか? フェイクサー」
「違うだろ! 素直クールが嫌なんだろ? 教授」
 多分、ハンターは眼鏡に全く興味が無いと思うのだが……残念な事にハンターではない為、心境は解りかねる。
 ハンターは教室のドアを開け、廊下に出た。しかし天然というのは恐ろしいモノで、取り立てて突起物が在った訳でもなく、コレといって廊下の摩擦力が少なかった訳ではないのだが。
「あうち!」
 と、勢いよくハンターは見事廊下でズッコケた。
 ズッコケつつ五メートルほど直進し、見上げた先には上級生の女子生徒が居る。ハンターは人差し指で鼻先をポリポリかきながら、恥ずかしそうに女子生徒を見上げた……
 またしてもハンターが放つ『また、やっちゃった』の超弩級の殺し文句(上級生限定)で、一人の女子生徒は廊下に膝から砕け落ち、悶絶する。
 軽い痙攣を起こす女子生徒が、最後に残した言葉は後世に伝え続けられるであろう。『知らないって、怖い……』天然ハンターの真骨頂を垣間見た瞬間だった。
 さらに二次災害と言うべきか、半径十メートル内に居た上級生の女子生徒は、悶えほのかに頬を染めながら廊下にヘタリ込んで行く。ブレザー色、紺色の絨毯が出来上がった。
「わわわ、どうしたの? どうしたの? お姉ちゃんたち」
 きょろきょろと辺りを見渡すハンターは、口元に両手を添え『あーん、ごめんなさいお姉ちゃん』とトドメの一撃を加える。女子高生達は『はうん』『んくっ』『飛んでっちゃう』と、或る種の遺言めいたモノを挙げていくだけでも、事の他凄まじい状況だ。
 だが、その渦中で全く動じない、上級生の女子生徒が居た。
 こだわりの黒縁眼鏡を着用し、髪はキューティクル加工を施したように、艶やかな漆黒のロングが宙を舞う。シンプルイズベスト! 流行に惑わされる事のない不変の黒縁眼鏡を、ココまで身体の一部のように使いこなせる人物は、そう居ない。この女性こそ、眼鏡単体に付属される女の子ではなく、眼鏡=女の子。もしや……眼鏡の上に位置する女の子であり、眼鏡界の中でピラミッドの頂点に君臨する女の子だろうか?
 是。断言する。この女性は存在する全ての眼鏡が恋焦がれる神、眼鏡女神なのだ! と。
「ハンター! 貴様、歩く染色体かっ! 人様に迷惑だから、放課後すぐに私の所に来い。と、言っといただろう」
「だってクー姉。フェイクサーが大事な話しがあるからって、言うんだもん」
「一旦私の所に来てから、後に行け! 後に。心配するではないか」
「ごめんよう。クー姉」
 強引にハンターの手を取り『ふっ』とほくそ笑み、ハンターが元居た教室に向かう女子生徒。クールビューティーと呼ばれ、当高校――女子生徒の頂点に君臨する。ハンターと手を繋ぎ仲むつまじく歩く後ろ姿は、一見ラヴラヴカップルだが……しっかりとクールビューティーによって、ハンターのインナスペース(小宇宙)に恐怖政治が敷かれていた。もはやクールビューティーの呪縛から逃れる事は不可能だろう。
 第一。ハンターのような華奢な身体で気の弱い、細部に渡ってショタコン心をくすぐる者はそうそう居ないハズである。にも関わらず、上級生の女子生徒達による血生臭い奪い合いが繰り広げられない理由は、クールビューティーの政治力と外交センスを基盤に各方面へ働きかけ、裏工作裏取引を積み重ねてきた――当然なる結果である。
 過去に一度だけ、教授によるクールビューティー分析プロジェクトなるものが行われた。
 一週間の調査、クールビューティーに対してエラーアンドトライを繰り返し、導き出した結果は『クールビューティー=勝ち組』だった。
 同じくフェイクサーに言わせると、実に簡単なモノで『眼鏡っ子だろ。無敵だね』だそうだ。
「それで、今日は何の会議なんだ? しかしまあ、毎度毎度飽きずに会議するよな」
 教室の前でハンターの話しかけるクールビューティー。ハンターはしかめっ面で『眼鏡だよう』とクールビューティーを見上げながら嘆く。
「眼鏡ねえ、フェイクサーだな。あの、病的な眼鏡好きが言い出しそうな事だ」
「クー姉助けて」
「ああ、ハンター。何とかしてやろう。楽しみにしておけ」
 にこやかにハンターを見つめ答えるクールビューティーは、助けを求められた感動と快感を胸に秘めるように、教室のドアを蹴り開けた。ともすれば、ハンターを小脇に抱え入ってい行ったかのように見えた。
「ごうらあ、貴様ら! 私の大事なハンターに何やってんだ? こんちくしょう」
 ガラピシャとドアを開け、中に入るとそこには――
 フェイクサーと教授が……
 何がどうなって、今こうなっているのか……



 3.
「出る! 教授。眼鏡からビームは絶対出るって!」
「いやしかしフェイクサー、よく聞いてくれ。いかに情熱を持ってしても、光を眼鏡上に集中させ何かしらの圧力を加えたとしても……過去に眼鏡からレーザービームが出たという記述は無いんだ」
「バッカヤロウ! レーザービームじゃない。眼鏡エネルギーから生み出された力が、レンズ面から押し出されて、ビーム砲が出るんだよ!」
 もはや理解を、数倍ほど超えていた。
 続けざまにフェイクサーが、ショート寸前のトロケ出す脳ミソに鞭を叩き込み、燃えいずる真っ赤な炎に包み込まれるように、情熱と眼鏡愛と振り絞った根性で、教授に素晴らしき眼鏡砲の実力をぶつける。
「眼鏡砲の破壊力は、コンタクトレンズ砲の約二十倍。裸眼砲にしてみては、約百倍の威力を持つんだ!」
「フェイクサー少し落ち着け。まずもってして、コンタクトも裸眼もエネルギー砲と呼ばれるものは出んし。仮に眼鏡砲が出たとしたら、眼鏡砲イコール無敵だよ」
「そうだ! 教授。無敵なんだ! この眼鏡砲を撃ち込んだ相手は、絶対に俺に惚れる!」
「え? フェイクサー……まさかそっちだったのか? 攻撃目標を各個撃破する性能と可能性を論じていたんじゃなかったのか?」
 教授は勢いよくメモ帳に『眼鏡面÷(光×情熱×(発射角度/目標距離))=無敵』と書き込み、続けて結論を書き込んだ。『百回に一回の確率で、出る事もある。出たら勝ち。』
 しかし、それを覗き込んだ自信満々のフェイクサーは、片足を机の上に乗せ握りコブシで叫んだ。
「甘いな教授。俺だったら、二回に一回は出せるな。しかも拡散メガネ粒子砲を」
 『か、く、さ、ん、メガネ……粒子砲。フェイクサー』と教授は自前のメガネをハンカチで、レンズ面の白くなった部分まで綺麗に磨き、感動に打ちひしがれていた。
 教壇の前で熱い討論を繰り返してきた二人は、これまた熱く抱擁し、握手を交わす。見る限りでは、メガネ同盟万歳! 民主国家眼鏡同盟INニューガバメントオーガスタ! と、眼鏡の臨界点を少しだけ見えた気がするように、互いの笑顔が異様に輝いていた。
「眼鏡の可能性を論じてるつもりだったが……もはや眼鏡エネルギー体の放出は、公然の事実だと確信に変わった。ありがとうフェイクサー」
「俺も解ってくれる友人が居るだけで嬉しいよ。教授……サンキューな」
 夕日が山間に消える頃。駄目スペシャリスト集う教室で眼鏡フェイクサーと教授は、赤い夕日に照らされて身も心も燃え上がっているかのように、見えた。


 ☆


「ばかか?」
「うーん……たぶん」
 呆然と立ち尽くしていたクールビューティーとハンターは、声を掛けずに帰っていった。
 眼鏡の中におけるスタンダートモデル黒縁眼鏡は、静かに輝きを放った。キラリとそして眼鏡エネルギーが押し出されたかのように……

  1. 2006/09/03(日) 23:51:47|
  2. 短編作品|
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