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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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眼鏡2.眼鏡の価値は

 この物語は――眼鏡が好きで好きで大好きだ! という眼鏡フォリックや、眼鏡が気になって気になって仕方が無い。そんな時代(眼鏡)を担う、ライト眼鏡ユーザーの為に書かれたモノであり――更に、眼鏡好きが眼鏡好きによる眼鏡好きの為の、由緒正しき聖書(眼鏡)である。



 1.
「えーと、コレは俺たちの挑戦だと思って欲しい。何故ゆえ朝礼で宣言するかと言うと、俺たちに強いた背水の陣であり、色んな意味での背水の陣である」
 朝っぱらから校庭で、マイクに向かって叫ぶ漢が居た。通称眼鏡フェイクサー。説明は後に回すとして、この熱い漢の熱弁が始まった。
「眼鏡というのは素晴らしい。眼鏡というのは愛が溢れる。眼鏡なくして、全てのモノを語ることは出来ない。我々眼鏡同盟が調査、推測した結果……生徒会長通称クールビューティが掛ける眼鏡。呼び名『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』が存在する全ての眼鏡の中で、頂点に君臨する眼鏡であることが分かった」
 秋の半ば、凍てつく風が吹きすさむ中。眼鏡を熱弁された全校生徒は、その場に唖然と立ち尽くして居た。朝礼という生徒にとっては、強制的な行事であり、まさか眼鏡宣言なるものを聞かされるとは、イレギュラーな出来事であった。
 さらに眼鏡フェイクサーの、眼鏡宣言のようなモノ? が続く……
「我々眼鏡同盟以下三名。リーダー眼鏡フェイクサー、参謀教授、お手伝いお姉ハンターは――眼鏡宣言によって生徒会長クールビューティに挑戦する! 生徒会は『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』を賭け、我々眼鏡同盟は解散を賭け――来たる来週の体育祭。騎馬戦の一騎討ちにて勝敗を決する。目の前の生徒は、俺の事をアホだと思っているかも知れない。だが俺はあえて言おう……俺は可哀相な病気であるという事を!」
 教師、生徒、空気。全てが固まった。


「我々ココに、眼鏡宣言する!」


「諸君、俺は眼鏡が好きだ。
 諸君、俺は眼鏡が好きだ。
 諸君、俺は眼鏡が大好きだ。
 縁なしが好きだ。半縁が好きだ。ベッコウが好きだ。金縁が好きだ。
 鼻置きが好きだ。紐掛けが好きだ。ゴーグルが好きだ。セルロイドが好きだ。黒縁が好きだ。
 近視で、遠視で、乱視で。ガラスで、プラスティックで、フェイク素材で、形状記憶合金で、塩沢ときで――――。


 この地上に存在するありとあらゆる眼鏡が大好きだ。」


「コレは遊びではない――本気なんだ! パロディーでもインスパイアでもない、パクリなんだ!」
 この眼鏡宣言は、ラノベ研究所。お気軽投稿短編の間にて投稿された、ある作品の冒頭部に使われている一部分を、パクり切ったモノであり――只今著者のBBSにて使用許可を申請中である。通ればいいのだが……



 2.
 体育祭当日、朝六時三十分。著者のBBSにて、使用許可確認。理由――『元々パロディーだから』
 場面はパソコンと睨みあっている、眼鏡同盟参謀――通称教授に移る。
「後はこれらを、まとめるだけだな」
 徹夜明けの教授は、朝食のアンパンを”ほうばり”ながら、PC9801-BX4(DOS6.2インストールモデル)と睨み合っていた。
 教授とは――形容記憶合金の眼鏡を愛用し、格好はいいが少し抜けている所がチャーミングな漢である。さらに成績は悪いが、無駄な知識を豊富に有する。見たことの無い言葉、単語、固有名詞は教授に聞け。と、校内新聞に掲載される程の実績を残す。
 また、友人と世間話をしていると、教授が『それはね――』と口を挟んできた場合。彼に対して『英雄光臨』と、敬意を払うのが当学園のしきたりだ。
 教授はクソ重い常駐タイプのテキストエディターで、整理、まとめているのは――例の騎馬戦に備えた、教授の秘密アイテムだった。
 
 『有機ELを、眼鏡フレームにはめ込み【眼鏡スカウター】よろしく。』
 『マジックハンド【脇腹君】そのまんま』
 『ポケットIN【お姉ハンター生写真】激萌え』
 『たまたま出来た新素材、グングルニウム眼鏡ケース【天下統一】ネーミングセンスに痙攣済み』


 これらをOKI製の単色プリンターで出力し、食べ残しのアンパンを意味もなく母親に投げつけ、家を出た。
「俺は性格が破綻しているかも知れん。まあいい。アンパンを投げつける事によって、何か得るものがあるかも知れない。もしかしたらアンパンを遠投した際に、空気中の微生物とアンパンとが摩擦熱で化学反応が起き、新種の生物が誕生するかもしれない……」
 何事にも前向きに考えるのが、教授の長所でもあり――短所でもある。
 教授は教授専用MSとマジックで書いた真っ赤なママチャリに乗り、待ち合わせ場所に向かう。


 ☆


 秋も深まり紅葉した並木道を、今時流行らない六段変則ママチャリで、颯爽と走り抜ける。向かう所敵なしと言わんばかりに、学生をすり抜けすり抜け待ち合わせ場所。学園駅前に着いた。
 教授――待つこと十分。その間に教授は、前を歩いていた生徒の世間話――ある漫画の話で『それはね、暗黒流星拳という厄介な代物で、ある意味無敵。 必殺技協会があればナンバーワンの認定が貰えるぐらい、恐るべき必殺技なんだ』と顔を突っ込んで、1英雄光臨をゲットしていた。
「あーお待たせ! 教授ぅ……あっ痛」
 駅出口の階段で教授に向かって手を振り、階段を踏み外し二度三度転びながら現れたのは――眼鏡同盟お手伝い――通称お姉ハンター。
 だだ漏れの鼻血を袖で拭きながら、近くを通りかかる女子生徒に『大丈夫? 歩ける?』と、五、六人に囲まれて現れた。 先ほどお姉ハンターが階段を転ぶ事で、お姉ハンターの片鱗を垣間見せてくれたが、こんな逸話を残す。
 学園の廊下を歩いている所、よそ見していたお姉ハンターが上級生の女子にぶつかり『ごめんなさいお姉ちゃん』と、潤んだ眼で上級生を見上げ、上目遣いで見つめる。さらにその台詞『ごめんなさいお姉ちゃん』から繰り出された恐るべき破壊力は、想像を遥かに超えた。
 目前の上級生の女子がいきなり廊下にへたり込む。それだけで済めばよかったが、周りにいた女子生徒は廊下一面にへたり込み、悶える女子の絨毯が出来上がった。本人は何故そうなったのか? 分かっていない天然お姉ハンターだ。
「さすがだなハンターは。階段で転び、鼻血を出す事によって母性本能をくすぐり、ハンカチではなく袖で鼻血を拭く事で、何も出来ない少年と思わせる。結果――上級生の女子生徒が群がると……いう訳か」
 内ポケットから、表面がかすれて文字が見えなくなったメモ帳を取り出し、教授はすらすらと書き込んだ。
 『(ドジっ子+ショタキャラ)×測定不能の天然に関与する運=ハンター無敵説』と書いて、満足気に内ポケットにしまい込んだ。教授のかすれきったメモ帳には、かなりの書き込みがあり――どんな事柄も、自分なりの認識に変換して記憶する辺りが、勉強は出来ないが無駄に知識を有する独自性を発揮する。
「ハンター!」
「あー教授。ちょっと待ってってねー、今行くから」
 教授の呼びかけにお姉ハンターが反応し、教授に向かって走り出そうとする所を、『俺がそっちに行くから待っててくれ』と教授は制止した。何か思わしげな、いやらしい顔でハンターに向かって走り出した。
「ハーイ」
 と嬉しそうに答えるお姉ハンターをよそ目に、気持ちよく障害物とおぼしきモノが見当たらない道で、教授はわざとらしく転んだ。いや、転んでみたりした。
「アイテッと」
 コレは……コレは酷い。
 確実に言える事は――お姉ハンターは天然だが、教授はお姉ハンターと同じく、転んで同情を買い母性本能をくすぐろうとして、あきらかに失敗に終わる。お姉ハンターを取り囲む女子生徒達の失笑を買い、さらに同情ならぬ――ひんしゅくを買う結果になった。
「こういう事もあるさ。今回のトライで分かった事は、俺はハンターにはなれない。それだけ分かれば十分だ。良しとしようか」
 残念な事に、全くそう思っていない面持ちの教授であった。
 後姿がとても寂しそうな教授は、パンパンとズボンの塵を払い立ち上がる。『教授! 学校行こうよー』と、教授専用MSと書かれた真っ赤なママチャリの、後部座席に座るお姉ハンターは、待ちくたびれた様子に――
「ははは、待ってろよーハンター」
 まるで安物の青春映画さながらの台詞を吐きながら、教授は専用機ママ=チャリーに乗り込んで、学園に向かって走り出した。



 3.
 「まだか。まだ来ないのか……愛するハンターよ」
校門前で頭をポリポリとかき腕を組み、タップダンスをしているかのように苛立ちを表わにする少女が居た。リズミカルに靴底を地面に叩きつけ、イライラがよく似合う。そう――生徒会長。通称クールビューティその人である。
 体育祭当日だけに、キャラメル色の半袖体操服に紺のブルマ。体操服の両袖はブルマと同じく紺を使用し、色のバランスがとれた、センス溢れる出来栄えだ。
 さらに、こだわりの黒縁眼鏡を着用し、髪はキューティクル加工を施したように、艶やかな漆黒のロングが宙を舞う。シンプルイズベスト! 流行に惑わされる事のない不変の黒縁眼鏡を、ココまで身体の一部のように使いこなせる人物は、そう居ない。この女性こそ、眼鏡単体に付属される女の子ではなく、眼鏡=女の子。もしや……眼鏡の上に位置する女の子であり、眼鏡界の中でピラミッドの頂点に君臨する女の子だろうか?
 是。断言する。この女性は存在する全ての眼鏡が恋焦がれる神、眼鏡女神なのだ! と。この黒縁眼鏡が『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』に推定……もとい断定されるのは、やむなし! また避ける事は出来ないのだ。
 「ううう、まだか、まだ来ないか」
 クールビューティの苛立ちは、限界を迎えようとしていた。何故そこまでクールビューティを苛立たせるのか? 焦っている。遅い、お姉ハンターが遅い。それ即ち女に絡まれていると、クールビューティは考えていた。概ねお姉ハンターが時間に来ない場合、女性に囲まれているので間違いではない。
 シャーシャーと爽やか笑顔のスマイリング教授が、お姉ハンターを例の名前が長い自転車の後部座席に乗せ、立ちこぎで現れる。『クールビューティ待たせたな』と、教授の声が響き渡り『クー姉! お待たせ、遅くなっちゃったー』と、あっぱれ青春時代。朝の清々しさが、お姉ハンターの笑顔でぱぁーっと広がりを見せた。
「遅いぞ! 教授、ハンター」
「すまんすまん。ハンターが駅の階段で勢い良くすっ転んで、立ち上がっては、また転んでしたモノでな。鼻血は出るわ上級生に囲まれるわ俺はひんしゅく買うわで、少々時間を食ってしまった」
 ひんしゅく買ったのは当然の結果になる訳だが、クールビューティは綺麗にそこは放ったらかしにして、お姉ハンターに駆け寄る。『ハンター大丈夫だったか?』心配顔のクールビューティに『えへへへへ……転んじゃった』と、照れた顔でお姉ハンターは答えた。
 「コレが、コレが、ショタの萌えなのか! 俺には……やはり無理だったようだな」
 『ハンター=ショタ萌え天上人。→俺=目から溢れ出す、熱い液体のようなモノ』また内ポケットから、かすれたメモ帳を取り出して、震える手で教授はそーっと書き込んだ。もはや意味が解らない。
 そんな敗北者の烙印を押された教授など、全く眼中にないクールビューティは、まさにお姉ハンター一色だった。
「ハンターのおバカ! アレだけ他の女と遊ぶなと、言っただろうに……」
「だって、転んじゃったし……鼻血出たもん。そしたら勝手にお姉さん達が、僕に声を掛けてくるんだもん」 
 『なんだと! ガッデム!』と怒りを通り越して、噂の黒縁眼鏡からビーム砲が出た? 出たのか? 出た……いや出ない。出ていない。一瞬出たかと勘違いさせる程に、クールビューティは、懐かしい表現でカンカンに怒っていた。
「ううー、クー姉怒っちゃやだよう……ぐすっ、ごめんなざい。ごべんな……じゃ……」
 コレか! コレが、ショタ萌えなのかっ! クールビューティの顔が一気に緩んだ瞬間だった。お姉ハンターはクールビューティの胸に顔を埋め、『あんあん』と泣きながら顔を揺さぶり抱きついている。
 平然と何事も無いように、クールに振る舞うビューティは、『よしよし、ごめんな。言い過ぎた』と言ってはいるが、あきらかに眼が笑っていた。
「おいおい、ハンターそんなに顔を動かすな。ばか、やめろ。す・ご・く……イイではないか」
 と言いながら、お姉ハンターを力強く抱きしめ『ううう、クー姉……ぐるじいよう』押し潰さんと言わんばかりに、張りのあるバストを押し付ける。
「クー姉」
「ほれ、遅刻するぞ」
 と強引にお姉ハンターの手を取り『ふっ』とほくそ笑み、お姉ハンターを連れて校舎に入る。生徒会長クールビューティ
 彼女は女子生徒の頂点に君臨する。お姉ハンターと手を繋ぎ、仲むつまじく歩く後ろ姿は、一見ラヴラヴカップルだが……しっかりとクールビューティによって、ハンターのインナスペース(小宇宙)に恐怖政治がしかれていた。クールビューティの呪縛から逃れる事は、もはや不可能であろう。
 お姉ハンターのような華奢な身体で気の弱い、細部に渡って母性本能をくすぐる者はそうそう居ないハズである。にも関わらず、上級生の女子生徒達による、血生臭い奪い合いが繰り広げられない理由は、クールビューティの政治力と外交センスを基盤に各方面へ働きかけ、裏工作裏取引を積み重ねてきた結果である。
 過去に一度だけ、教授によるクールビューティ分析プロジェクトなるモノが行われた。
 一週間の調査。クールビューティに対してエラーアンドトライを繰り返し、導き出した結果は『クールビューティ=勝ち組』だった。
 呆然と立ち尽くし、二人の後姿を悲しげに見る教授は、長ったらしい名前の赤い自転車を寂しそうに押して、駐輪場に消えていく。ふと立ち止まり、居るハズのない蝶々を見つけた振りをして――
「待てーあはははは、捕まえてやるぞ! 待てー」
 と、草原の中をはしゃぐ少女のように、校舎に向かって消えて行った。



 4.
 朝早くプリントアウトした紙を見ながら、鞄の中に同じモノが入っているかを確認する教授。結局蝶々は捕まえる事が出来ず――そもそも見えては居ないのだが、お姉ハンターに敗北感を感じながら、校舎の三階突き当たりの教室に向かって、歩いていた。
 ドアの上部に『視聴覚準備室』と書かれた札が刺さってるが、ドアには『眼鏡同盟国家大使館』と、印字された教授製作プレートが、デカデカと貼り付けられていた。
「教授だ。居るのか?」
「すでにな――入ってくれ教授」
 ドア越しに低く深い声が聞こえ、教授は気を引き締めて思い切り、そして力強くドアを開けた。
 「オス! 眼鏡失礼します!」
 バアンッ! と、けたたましい音を立てて、教授は中に入る。中の漢は『オス眼鏡!』と、言葉を返す。
 ごちゃごちゃとした準備室の奥で、高級感溢れる肘掛椅子に足を組み、背もたれを限界まで倒して座り――
 先週肌寒い中、紳士な態度で朝礼の為に整列する生徒達の前で、事の発端――眼鏡宣言をした漢。
 眼鏡同盟リーダー――通称眼鏡フィクサー。彼もまたクールビューティ同様、裏工作を繰り返すカリスマ的存在だ。
 常時ジェラルミンケースの中に、各種様々な眼鏡を取り揃え、どのような事態が起きようが、すぐさま対応出来る。眼鏡っ子御用達、頼りになる漢だ。
 さらに全てにおいて熱血漢。逆鱗に、触れようモノなら眼鏡パワーで一撃必殺。常に真っ赤な炎(オーラ)が、眼鏡フェイクサーを包み込むよう――熱いパトスは誰にも負けない。
 準備室内では、25型ブラウン管フラットテレビに――各小売店、メーカーのCMがエンドレスで流れていた。外では体育祭の選手宣誓が執り行われているが、何事も無く二人は会議を始める。教授は無造作に置いてある、モニター用のスピーカーに座り、眼鏡フェイクサーは背もたれを少し戻して、『やっぱ、限界背もたれは腰痛いわ』と言いながら、教授を見た。
「ふう、では始めようか。騎馬戦に勝つための作戦。眼鏡フォー、ダッ! ヴィクトリーロード作戦の説明に入る」
「頼む。どんな手を使っても構わない! ただ勝つ! 手に入れるぞ教授。『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』を」
 机の上に盛り上がるゴミの山を、整理せずに教授は腕で払い倒す。『手に入れようフェイクサー』と、嬉しそうに笑いながら、確保した場所に、早朝プリントアウトした用紙を広げた。
「では説明に入る」
 折りたたみ式マジックハンド【脇腹君】で、教授は意気揚々をアイテムの説明をする。眼鏡フェイクサーはマジマジと用紙を見つめ、教授の説明を聞き入る。
「流れを説明しなければならない。よく聞いてくれ! 正直手強いクールビューティだ。少しのミスがあれば、そこを突いて一気に俺たちは崩される。頭に叩き込んでくれフェイクサー」
 『ほうほう』と、会議用の縁なし眼鏡に眼鏡を掛け替え、眼鏡フェイクサーは、真剣な面持ちでジェラルミンケースの中から、メモと書かれた眼鏡ケースを取り出す。
「まずフェイクサーには、眼鏡スカウターを装着して頂く。性能はその時まで、楽しみにしていてくれ」
 メモと書かれた眼鏡ケースを、『オス! 眼鏡』と言いながら”ぱかっ”と開けて、中からA5版白紙の用紙を取り出し書き込んだ。教授も『オス眼鏡!』と返事して、作戦内容を説明する。
「騎馬戦という事で――俺、ハンターが馬をやる。フェイクサーは騎手をやれ。手始めに俺がマジックハンド【脇腹君】で、相手の馬の脇腹をくすぐる。そのまんまの使用方法だ」
「なかなかいい作戦だな」
 ニヤリと含み笑みの眼鏡フェイクサーに、『なかなかいいだろう』と、教授は【脇腹君】で眼鏡フェイクサーと握手を交わし、差し込む光が、色鮮やかに二人を照らし出した。壁に映し出された影は、ロボットと人間が分かり合えた瞬間のように、美しかった。教授は話を続ける――
「あひゃひゃひゃと、笑い声と共に相手の馬が体勢を崩した瞬間――フェイクサーここで出番だ!」
「眼鏡か? 眼鏡スカウターから、仕掛けが発動するのか?」
 教授は素早く古ぼけたメモ帳を取り出し、眼鏡フェイクサーに見えないように殴り書く! 『眼鏡LOVE→直結→フェイクサー』と書き込み、『結果=惜しい!』と――大文字でページの半分を使用し、眼鏡フェイクサーにコレ見よがしに開いた。
「フェイクサー! 萌だよ、萌え! お姉ハンターの生写真を投げつけ、崩れた体勢のクールビューティに、更に追い討ちをかけるんだ!」
 お、惜しいのか? しかし眼鏡フェイクサーは、見せ付けられた『結果=惜しい!』の意味を汲み取り、頭を抱え込み机に伏せる。
「そうだったのか……」
「気にするなフェイクサー。人間一度や二度の間違いや、早とちりは誰にでもある。俺だって騙された事もあるさ」
 『ああ、スマンな教授』と、フェイクサーは呟く……
 教授は【脇腹君】を、ガチャンガチャンとグーパーグーパーさせて、眼鏡フェイクサーの肩を掴む。優しく包み込むように、そーっと囁いた。
「友人から、眼鏡育成シュミレーションなるゲーム。『ザッメガネ』が発売させると聞いて、飛んで眼鏡専門店に買いに行ったモノだ」
 微妙な慰められ方――出ないゲームに騙されたのか? ゲームを眼鏡専門店に買いに行ったのが、そもそもの間違いなのか? なんとも分からない、教授節で眼鏡フェイクサーは慰められる。
「ありがとう教授……眼鏡って、色々あって素敵だな」
「そうだフェイクサー! 眼鏡は無限の可能性を秘めている!」
 続けて教授は――
「作戦の続きだが、後は崩れ落ちそうなクールビューティから、俺たちの念願――『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』を、奪い取るだけだ!」
 その言葉を聞いた眼鏡フェイクサーは、狭い準備室の中を駆け――机の上に飛び乗り、『眼鏡行くぞ!』と雄叫びを上げる! その言葉に教授は『眼鏡眼鏡眼鏡』と返事を返し、二人で気合を入れる。二人同時に、しかも寸分の狂いなく――
「眼鏡オー、ファイオーファイオー。眼鏡オー、ファイオー!」
 ――――
 二人は猛ダッシュでグラウンドに向かった。時刻は十一時半。昼休み直前だった。



 5.
 『全校生徒諸君。昼休み中に申し訳ないが、私は生徒会長だ。楽しみにしている生徒は待たせたな。コレより生徒会有志と、眼鏡同盟なる同好会有志による、騎馬戦を執り行う。我々生徒会は赤ゲートに、眼鏡同盟は青ゲートに向かって貰う』
 昼休みに入り、全校生徒が様々な場所でマットを敷く。昼食を始める最中――クールビューティの放送が学園中に響き渡った。
 『興味のある生徒はグラウンドに集合せよ! 我々生徒会執行部は、最低限の舞台を整えた。貴様らの為に、体育祭のプログラムの変更など出来んからな。大いに感謝して頂きたい。最後に、お姉ハンターが眼鏡同盟に入って居なかったら、この話は無かっただろう。以上!』
 吐き捨てるようにクールビューティは言い放ち、放送は終了する。
 あいもかわらず『眼鏡! 眼鏡! オス眼鏡!』と、眼鏡フェイクサーと教授は、早足で青ゲートに向かっていた。すると――
「フェイクサー! 教授ぅ!」
 全力ダッシュでお姉ハンターが、眼鏡フェイクサーと教授が居る青ゲートに向かって、突っ込んできた。リーダー眼鏡フェイクサー、参謀教授、お手伝いお姉ハンター。三人が青ゲートに集まり、ココに眼鏡同盟が勢揃いした。
 教授は例の、【眼鏡スカウター】を眼鏡フェイクサーに手渡しし、【脇腹君】をポケットにしまう。お姉ハンターはポカンとして、『よく分かんない』とキョロキョロとするが、教授は『心配するな、俺たちに任せろ』と、お姉ハンターを安心させる……
「後は開始の合図を待つだけだ」
 【眼鏡スカウター】を、シッカリと装着した眼鏡フィクサーは言う。目配せをして円陣を組むように指示し、青ゲートに三人の円陣が出来あがる。
 サーとノイズ音が乗るスピーカーから、始まりの合図が流れる。
 『只今より、騎馬戦一騎討ちが始まります。ご覧になりたい方は、グラウンドまでお越し下さい』
 晴天の体育祭。生徒達はグラウンドに集まり出す。赤ゲートには『ウオオオ!』と漢達が群がり、まるで百万の兵士が士気を高めるように、地響きが鳴る。一方――青ゲートには、『きゃあああ!』と女子生徒達が群れをなし、お姉ハンターに黄色い声援を送る。舞台は予想を遥かに上回り、異様な盛り上がりを見せた。
 円陣を組む眼鏡同盟は、朝礼台に立つ体育教師の動向を見守る。生徒会に依頼され、縦じまのスーツを纏う体育教師が、ポーズを決める。
 そうして居る内に、体育教師がマイクを持ち――小指を立て、オーバーアクションで思い切り吼えた!
 『赤ゲートより、生徒会率いる生徒会長。クールビューティ――入場!』
 校内放送から、テーマ曲が流れ出した。『ウオオオオオオ!』暴動寸前にまで盛り上がる男達の中から、生徒会長クールビューティの姿が現れる。テーマ曲――ユーロビートのリズムに乗り、ワッショイ! ワッショイ! と、グラウンドの中央に着いた。
 今度は青ゲートの方向に身体を仰け反らせ、捻じれ切った可笑しな体勢で、体育教師は指を差して吼えた!
 『青ゲートより、眼鏡同盟率いるリーダー。眼鏡フェイクサー――見参!』
 同じく校内放送から、テーマ曲が流れ出した。眼鏡フェイクサーが、『メ! ガ! ネ!』と気合を入れて叫ぶと、『ボンバイエー!』教授――お姉ハンターの息が合い、雄叫びをあげた。その瞬間!
「きゃああああああ! ハンター!」
 と、根本的に眼鏡で盛り上がらないといけない所、お姉ハンター人気で沸騰寸前の高揚を見せていた。テーマ曲――猪木(眼鏡)ボンバイエのリズムに乗り、眼鏡同盟は『エントランス眼鏡フィーバー』と、もう訳も分からないトランス状態で、グラウンドの中央に向かう。
 集まった全生徒に取り囲まれ、睨み合う生徒会並びに眼鏡同盟。辺りは静まり返り、学園中の者たちは唾をのんだ。
 静まる中――約一分。お互いに距離を取り、間合いを計る。
「眼鏡フェイクサー。勝負!」
「『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』は、俺たち眼鏡同盟が頂いた。クールビューティ――勝負だ!」
 眼鏡フェイクサーは教授の指示通り、【眼鏡スカウター】のボタンを押し電源を入れた。同時に教授は『眼鏡フォー、ダッ! ヴィクトリーロード作戦始動!』と、声を張り上げる! 眼鏡フェイクサーが掛ける、眼鏡スカウターに映し出されたモノは――



 『I LOVE』
 『眼   鏡』



 だった。
「うおおおおおお!」
 【眼鏡スカウター】に映し出された『I LOVE 眼鏡』に、毛穴中からオーラが噴出してしまったかのように、絶頂を迎える眼鏡フェイクサー。テンションが最高潮のまま――体育教師の叫ぶ声、闘いの合図が――地域一帯に響き渡った。
 『レディーファイ!』
 その声と共に、『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』を持つ生徒会率いる生徒会長――クールビューティと、情熱の眼鏡同盟率いるリーダー――眼鏡フェイクサーは……
 互いの想いを胸に、モノ凄い衝撃でぶつかり合った。


「めがねぇぇえええ!」
「ふぇいくさぁぁあああ!」
 ――――


 ☆


 学園中を巻き込んだ、体育祭騎馬戦一騎討ちで、彼ら眼鏡同盟は――『アーティファクト。不変の黒縁眼鏡』を、手に入れる事を夢見て、風(眼鏡)になった…… 

  1. 2006/09/03(日) 23:55:32|
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