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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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ようこそっアチラ側の喫茶店へ

「お帰りなさいませぇ、ご主人さまぁ」
 目の前で繰り広げられる光景は、凄まじく異様な空気に包まれていた。友人に連れられて、今流行りらしいメイド喫茶『らびあんろーず』という名のカフェに着いたのだが、それはもう果てしなく異空間と言うべく、まるで――戦場に咲く一輪のパンジーの様だった。
「どう致しました? 席はコチラになります」
 笑顔で迎え入れるメイドは、喫煙席か禁煙席か聞いてくる。萌えに関しては一家言ある友人菊池は、手馴れたように、喫煙席で。と答えた。
 胸にネームプレートを掛けて、ももチャンと記入されている。総じてボリューム感のある身体に、メイド服という制服を着せられる。――ももチャンと言うメイドは、インディゴブルーのストレッチ素材フェイクデニムのワンピース縁に、白のレース。スカート部は少し短め、やらかくフレアに広がりをみせていた。ペチコートとカチューシャは、純白により清潔感を演出して、さながらナイチンゲールかと思わせる程だ。まあ、そうは言ってもメイドなんだが……
「あ、どうも」
 とりあえず席に誘導されて、辺りを見渡す。友人菊池は馬鹿の一つ覚えの様に、ちょっとノート見てくるよ。と、理解し難い戦慄的な台詞を吐き捨てて、両手を広げて駆け出した。その行為すら意味が解らないのにも関わらず、レジカウンター付近に設置してあるノート置き場からノートを取って帰ってきて、モモちゃん可愛いだろう? と言う。刹那的にレールガンで脳天を打ち抜いてやろうかと思う程、置き去り感を強いられる。どうして店員のノートが個別に用意してあるんだ……。このアイドル的な発想は、ミンメイアタックからの派生だろうか? 何にせよ、喫茶店とは思えない仕様になっていた。
 室内には飾られたメイド服、喫茶店とは思えない照明。匂いもそうだった……喫茶店特有の香ばしい珈琲臭が漂ってこない。一番信じられなかったのが、新聞雑誌等が全く見当たらない。この店、らびあんろーずだけかも知れないが、喫茶店に類似した――似て非なる物だった。
 慄き困惑する最中、菊池に話し掛けられる。
「今日は眼鏡の日だってさ」
「へえぇ」
 と、言ってみたモノの特別な日――的に言われても価値が全く解らない。まあ、そう言われれば店員三人程ホールに出ていて、全員眼鏡を掛けている。しかし、気になる……何故ズレている? 鼻頭に引っ掛けているだけで、定位置に直そうとは誰もしない。寒気が襲ってきた。
 この空間は危険だ。――この場所に居る全ての人間は、明らかに空簡に呑み込まれている――通常の感覚が麻痺してトリップ状態としか思えない程、当たり前にしている。気付かないのか? おかしいとは思わないのか? 第二次世界大戦末期の日本軍のようになって、酔いしれている事に気が付かないのか? ある種の自己開発セミナーに没頭する、マインドコントロール処理済の専業主婦を見ているようだった。
 すると、客の声が気になり始めた。――笑い方が統一されている。同じ服装をしている客の笑い方が同じだ。実際気持ち悪い笑い方なのだが、気持ち悪いぐらい笑い方も酷似している。
「えへっえへっえへっ……」
 そう思うと目の前でノートを広げ、ほくそ笑んでいる友人菊池も同等だった。
「ぐふっぐふっぐふっ」
 違った、その更に上をいっていた。一瞬ではあるが、ランバラルが居るのかと思わせるようなグフの連呼に、死すら感じ取った。そう死の香り……鼻に突き刺さるツンとした、あの感覚。忘れられない、ココの店員は何も感じないのか?
 喫茶店として形態を成しているとしても、どれもこれもが偽りに見えて仕方が無かった。やもすれば、友人菊池以下――客、店員――自分以外全てが仕込みであると確信してしまっても、それは致し方《したしかた》無い事だろう。と、思える程だ。自分も、この空間に半分以上足を突っ込み掛けているような気がして、戸惑いを隠せない。
 駄目だ。駄目だ駄目だ駄目だっ! こうなると気になって、どうしようもない。目に映るもの全てが異様に見えてしまう。更にだ……
 友人菊池の服装もそうなのだが、どう転んでみてこのような、壊滅的にセンスの欠片も見当たらない格好になってしまうんだ? ずらりと席に着く客の姿は、もう夏が近いというのに何故ネルシャツだ。しかも毛羽立った茶系のネル地のシャツ。無地は少なく、ほぼ全員と言っていい程チェック柄だった。
 かの悪名高い、萌え《シビリアン》コントロール。コレが、コレがそうなのか? しかし、俺の脳内ではセルフコントロールが奏でられ巡り巡っていた。シビリアン、セルフ……全然違うではないか! あからさまに、ボケたいが為に取って付けたようで情けない、何かTMN(ネットワーク)だ。がっ、まさか!
 コレはメイド喫茶側の戦術だ。
 そうだ、焦るな自己を保て。戦略的に劣勢の場合のスタンダードモデル――メイド一個分隊による人海戦術だ。惑わされるな、女子高生のMS《モビルスーツ》の組み合わせは良くあった事だが、メイドの重火器所有は聞いた事も無い。パンツァーファウスト砲を担いだメイドが居るなど、到底思えない。
「菊池ぃ、何なんだココは。戦場なのか?」
「何言ってんだよ。萌だよ、萌え。お前、絶対領域知らないのか?」
 絶対領域……凄まじく死線を超える響きだ。境界線には色々在るが、絶対領域。
 コレは確実に死ぬな。俺は正直その言葉を聞いただけで、幾戦をも戦い抜いた歴戦の猛者どもが夢の跡。その猛者どもの、更に一握りの英雄が潜り抜けた、その先。ニュータイプの限界が絶対領域――俺は仮定する。一部のガノタではレジェンド化したカミーユですら、絶対領域を超えて廃人になったというのに……このメイドたちは、それすらをも持ち合わせていると言うのかっ!
 ちりんちりん……不意に木霊する戦慄の奏で。
「何だこの、鐘の音は」
 鳴り響く、真鍮の鐘の音。背中に凍てついた汗が、たらりと流れた。殺される、俺は殺されるのか? コレが死! 死を感じ取った瞬時に行われる、脳内麻薬の発動かっ!
「きくちぃぃぃぃ」
「ん? どうした?」
 刹那、メイドが手に何かを持ってやって来た。ヤバイ、逃げろ、逃げろ菊池。俺たちは確実に殺られるぞ。援軍が来る、パルス砲を持った援軍が。
「ご注文は何に致しましょうか? ご主人さまぁ」
 ――――――ッ! ちゅ、う、も、ん。
「俺、ホット。お前は何にすんの?」
 はあはあはあはぁ……な、何だ、注文か。エンドルフィン数値が、異様に上がっていたようだ。落ち着けば簡単な事だ。空気に呑まれない様にすればするほど、ドーパミンが過度に放出されて、この空間に呑み込まれて居た。戦場は、こういうものか。俺は酔っていた。確かに、メイド喫茶なる世界に戦争酔いしていた。
「俺もホットで」
 注文を聞き終わったメイドは、嬉しそうにはしゃぎながらカウンターへと旗艦して行く。そのはじゃぎようは、空々《そらぞら》しさの極みだった。帰り間際、眼鏡のレンズを通じ光を反射させ、俺の視界の自由を奪った事が、故意なのか他意なのかは解らなかった。
 しかし、先ほどから事あるごとに笑い転げるメイドは、悪意に満ち溢れているとしか思えなかった。即ざまメイドからパンツァーファウスト砲を奪い取って、砲火したい衝動に掻き立てられる。殺られる前に殺る、戦場の基本中の基本だ。その身をもって体言したカクリコンは、分かり易いモデルになるだろう。まあ、出て来なければ殺られなかったのだが。
「正直、思考がマトモに働いていない」
 軽く意識が混濁する中に置いて、自己の形成を再度調整する。落ち着く為に胸ポケットから、磨きあがったステンレスのケースを取り出した。菊池がモモちゃんというメイドにうつつを抜かす間に、一本の葉巻をケースから抜き取り、机に置く。
 ――カット。失敗すれば、それ即ち敗北を意味する。
 おそるおそるナイフにより行う、鋭く鋭角に切り込むカット。一心の迷いも無く切り込んだ断面は、いつのもように美しく素晴らしいモノだった。
 サバイバル模擬戦の、キューバで仕掛けられたゲリラ展開の再来と言わしめた、大胆な戦術を思い出す。キューバ繋がりだと言われればそれまでだが、俺にとってのコイーバは、安らぎと癒しを与えてくれる。
「ふうぅ」
 怒涛のように押し寄せてくる戦術に打ち勝ち、暫しの安堵。展開の速さに付いていけない俺は、ココに来てやっと腰据えることが出来る。キングオブコイーバの香りを嗜めて、音楽に耳を傾けた。名ばかりな喫茶店だといえども、流石に心地の良いリラクゼーションを演出する曲選が成されいるだろうと、筋肉が柔和していく。
 まあ喫茶店といえば、ジャズかGS《グループサウンズ》か、もしくはオールディーズか……そうして耳に飛び込んで来たのが、イージーリスニング系統だった。
「少しアップテンポだな? ’90年代前半の雰囲気だが、リバーブが掛かりすぎている? なんだろうか」
 ’90年代前半の割に曲に深みがあるな、チャンネル数がかなり多い。コレは、ヘタをすると128chはあるぞ。しかも0,5秒後に原音は返さず、リバーブ音のみ返す仕様かっ。
 解らない、しかもイージーリスニング系にも関わらず、何故か癒されない。落ち着かない。聞いていると過度に苛立ちが募っていく。すると、――声が――入っていた。
『ねこみみもーど、あはっ』
 ふ……不快感。この不快感……
 ザワつく。
 ざわっ……ざわっ……
「ザラつく……強化人間のようにザラつく……」
 イージーリスニングだとばかり思い込んでいた。その仕打ちが、これか! 騙された、気分の悪い騙され方をした。そう、実の息子にオレオレ詐欺を仕掛けられ、まんまと引っ掛かった――ちょろい――母親みたいに騙された。
「菊池、教えてくれ。この曲は何なんだ? 教えてくれよ、菊池ぃ」
「え? アニソンだけど」
 アニソン……アニソン、だとぉ。何だこの店は、何なんだ! この喫茶店的尖ったコスプレによる一部の人間をターゲットにした、メイド喫茶。狭すぎるマーケットの中において、各店舗で客を取り合い、殴り合いを繰り広げる市場は何なんだ。馬鹿にするのもいい加減にしろ! 需要に対して明らかに過剰供給でないか!
「菊池! 今すぐ責任者を呼べ。説教してやる!」
「おいおいおい、どうしたんだよ」
 どうもこうもあるかっ、憤慨した。コアを成す深層心理の更に奥底から、沸々と込み上げる怒りと不快感。感動はしない、憤慨した。
「お待たせ致しましたご主人様ぁ。ホット珈琲でございまぁす」
 又、ももチャンか……
 いい加減、嫌気が差す。俺達についた担当メイドは、ももチャン。会計をする際に、ももチャンのレジ番号で管理して、品番が珈琲。幾度もなく感じ続けているが、この形式は飲食では、風営法の許可を取らないと営業出来ない飲食店と同じ経営になる。まあ何処とは言わないが、5時から六時の間に繰り広げられる営業メールが来ないだけだな。後は、なんら変わりは無い。
 静かに切れそうだ……
 宇宙《そら》が落ちてくる……
 サイドⅡに還《かえ》りたい。(誤用)
「菊池、よく聞いてくれ。俺はどちらかと言えば君達寄りだ。ガンダムは’78から’88までしか認めない、融通の利かないガノタだ。そのうえ08小隊は、全く認めないといった具合の出来上がりっぷりだ」
「ああ、日本語喋ってくれと思うぐらいよく解った」
「いかに、その俺でも我慢の限界だ。アウドムラに撤退する」 
 俺は席を立ち、菊池を後にする。ネルシャツを来た、只今強化人間研究中と言わんばかりの信者を、縫うように表に向かう。出入り口のドアノブに手を触れた瞬間、店内の照明が落ちた。
「なんだ?」
 店内はザワメキ立ち暗闇の中で、とりわけ高い音質の声が響き渡った。
「ふっこれが若さか……」
 その時――有機物、無機物、全て在るモノが制止する。そうしてメイド喫茶と呼ばれる店内全ての人間が叫んだ!
『イキナリ粛清されてる!』
 と。
 店内にある全ての電球色。スポットライトが、キッチン付近に備えられたカウンターテーブルに居る女性を照らし出す。白一色のメイド服。首元とニーソックスの縁に赤のリボンがアクセントとなり、エンジのローファーがトータルバランスを決定付ける。黒縁眼鏡はスポットライトの光に反射して、その女性は輝きを放っていた。
「そこの男、話は影から聞いていた。ニュータイプは分かり合えるのではなかったのか? んん?」
「そっそれは……」
 滝のように冷や汗が流れ出す。シロッコに睨まれたレコアさんのように、油汗を掻き続ける。逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ。俺はニュータイプ、カツクラスのニュータイプでも分かり合えるハズだっ、見えないモノも見えるはずだ!
「明日、又店に来い。コロニーイベント開催だ」
「ティターンズの制服で、お出迎えだ。閣下」
 俺は何も言わず立ち去った。
 そうして次の日、当たり前のように開店待ちをしていた。閣下という魅惑の言葉に俺は、負けた。
  1. 2006/09/03(日) 23:50:09|
  2. 短編作品|
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