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こちらは、主に素直でクールな女性の小説を置いております。おもいっきし過疎ってます
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星の屑

 私は素直フランソワ。理解のあるオトンとオカンのお陰で隣の居酒屋の娘になり、その居酒屋の親父はフランスに修行に行った事になった。まあ、詳しい説明は“素直クール保管庫”WIKIに在るSS姉弟シリーズを読んでくれ。大体把握出来ると思うから。
 そうして私事フランソワは、髪は脱色して緑のマネキュワを入れて、フランス人っぽくなり、弟とエロエロ出来る事になった。まあかなり強引ではあるが、コレは仕方が無い。だって、私は弟の事を凄く愛しているから。
 素田よ元気にしているか? 先の2チャンネル素直クールスレでは、同じく朝方投下にてお世話になったな。一度姉弟シリーズに使わせて頂いた、感謝しているよ。素田よ、男を大事にヲタクの道へ引きずり込めよ。
 ファーストシリーズより約一ヶ月ぶりだが、私は素直学園の朝礼、朝礼台の上に立ち、下級生同級生の前で宣言する!
 弟よ、今これから始まらんとしている事は解るか? 弟よ、この星の屑が分かるか? 待っていろ愚弟。
 そうして私は、又――――
「私は、帰ってきたああああああああ!」
 星の屑乗じるままに、新姉弟シリーズ“星の屑”あんパン作戦実行である。


 1.
「皆のモノ良く聞け! これから始まる素直クール祭は、素クール再興の為、なくてはならない作戦である。今や、ツンデレに勢力を奪い返され、新興勢力渡辺さんに侵食され、最後の砦シュールとクールの闘いである。勝たねばならぬ! 更に宣言する! 我々が残された拠点は素直学園、コレのみである。皆のモノ振るい立たせろ! あんパンを持て! 槍を持て!更に米を持て! 最後の兵器トゥールハンマー(ひどいできばえの最初の武器)の餌食にしてやるぞ! 星の屑乗じるままに、星の屑あんパン作戦実行!」
 朝礼台の前に並ぶ生徒達が、一気に湧いた!
「素直クール万歳! 素直シュール万歳! ジーククール! ジークシュール!」
 うをおおおおお! と、約千人の生徒達が雄叫びをあげた!
「では、生徒諸君らの成果を期待する。以上!」
 この後約三十分間は、ジーククール、ジークシュール。と歓声が学園中に響き渡った。


 ☆


「穂種、空、投げやり。居るか?」
 そういって私は、生徒会室のドアを開けた。中には三人の仲間が、会議用の椅子に座っていた。
「揃っているようだな」
 ああ、と答える黒髪の生徒。素直空(スナオクウ)副会長。会議用テーブルの上に学園内の地図を広げ、何か考え込んでいた。すらっとしたスタイルで、切れが良く眼鏡がシンボリックな面持ち。美しい女性とはこういうモノか? と、思わせる程綺麗な副会長だ。
「差し入れだ、ほれ」
 おかかのおむすびを放り投げ、受け取る少し茶色掛かった髪の生徒。素直穂種(スナオホダネ)書記係。今空の発言を、ノートにアラビック文字で記録を残す強者(ツワモノ)。背は小さく、ぷっくりしたホッペは、同じ女から見ても可愛らしい。そばかすが似合う、キュートな書記係だ。よく理解に苦しむ事を発言するが、ソレが男達にモテモテだ、そうだ。
「おかかは駄目だ! 蛙が鳴くから」
 そうか、と私は言って、じゃあ、次は明太子にするよ。と返し、生徒会長専用の肘掛付の皮貼り椅子に座り、仰け反る。
「なげやり、起きろよ」
 テーブルに上半身を乗せてだらけている生徒。素直なげやり会計係。その名の通り、会計もなげやり。
「身体を起こすのもメンドイ。このままでいいかな?」
「別に構わないが」
「ん。あー喋るのも、めんどくさくなってきた」
 蒼み掛かった髪のショート。6時間目は体育の授業だったのだろうか? 着替えるのがめんどくさかったのだろう、体操服姿でテーブルの上を寝そべっている。この中で一番のバストの持ち主だ。
「3文字以上喋らせないで欲しいな」
 そう言って、椅子から転げ落ちた。あーめんどくさい。そういってヤル気がなさそうに、マグロのように転がって、話しを聞く。「今回は朝礼でイキナリだったが、これから星の屑あんパン作戦の会議に入る。以前から空と話をしていたのだが、明日から実行に移す。空、説明。よろしく頼む」
 素直なげやりは地べたに這い蹲り。素直穂種は、手持ちぶたさでボールペンを回し、失敗してはデコにぶつけ、西条ヒデキ、ヒデキ感激! と呟いていた。この素直学園きっての秀才、素直空は黒板に素直学園内の地図を貼り付けて、例の作戦の説明に入っていた。
 私、素直フランソワは足を組み腕を組み、会長専用肘掛付椅子に座り仰け反る。
「空! 説明」
 そう言うと、空は眼鏡を中指でくくっと上げて、ガラスを光らせた。
「今回の作戦、星の屑あんパン作戦は、予てより当学園理事と協議した結果。提携の工場に約百万個のあんパンを、発注出来るようになった。ソレらあんパンを、学園最終兵器トゥールハンマー。『正式名称:素直式科学兵器局地型対空迎撃用集中電磁砲』に装着し、使用例外ではあるが、敵学園ツンデレ学園に直接発射。のち主流属性連合軍。ツンデレ軍約二千五百名、渡辺軍約九百名。計約三千四百名が当学園に乗り込んできた際に、星の屑あんパン作戦実行である」
 テーブルを叩きつけながら力説する空。しかし、穂種、なげやりを見てみると、さーっぱりわやや。と、言わんばかりに眼を点にしていた。しょうがない。
「空。穂種となげやりに、もっと分かりやすく説明してやれ」
 再度眼鏡をくいっと定位置に戻し、まるで小学校の先生になったように、優しく囁く。
「穂種、なげやり。よく聞いてね。屋上にバズーカみたいなモノがあるでしょ? そのバズーカを遠くのツンデレって学校に当てて、怒ったツンデレ一味が私たちの所に来るでしょ? それであんパンを一味にぶつけるの。分かった?」
 あらかた噛み砕いたモノの言い方で、空は説明する。
「まあ、そんなトコだな。穂種分かったか?」
「うん! 分かったぞ。うちは昇竜拳アイツはララバイ。二人はランデブーだな」
 穂種……少し違うような。ふう、確認するか。私は空に問いかける。
「空。どうだ? 穂種は理解しているのか?」
「会長。そうですね、少しニュアンスは違いますが、大体は把握しているようです。ですから……」
 少し考えて、空が話を進める。
「穂種。ララバイだと、ちょーっと違うから、こう。穂種は昇竜拳アイツはトラブル。二人はリンデンブルクね」
「会長! これで問題ないと思われます。トラブルに意味合いを変えると、ランデブーに掛かってくる言葉が変換しますので、リンデンブルクの活用形になります」
「良し解った。なげやりはどうだ?」
 かめはめ破! かめはめ破! と穂種が喜んでいる横で、よだれを垂らしながら溶けそうな、そんななげやりに聞く。するとなげやりは、投げときゃいいんだろ、投げときゃ。と言う。まあそういう事なので、気にせず話しを進める。コイツはこう見えても中々物事を把握しているから、話が早くて助かる。
 コレで大体は伝達したな。後は明日の作戦を実行するのみだ。空が居れば大丈夫だろう。それでは――
「良し今日の会議は終了。明日に備えて、男に甘えるんだぞ。以上!」
 私は立ち上がり、生徒会員を見守る。
 失礼しました、会長。と言いながら少し笑みをこぼし、凄い速さでドアを開け駆け抜けていく空。ドアを開けて直ぐの角を曲がりきれずに突っ込んで、鼻血を出しながら猛スピードで過ぎ去って行った。
 ふふふ。彼氏が待ち遠しいんだろうに、くっくっく。
 すると――会長。ビバリーヒルズ青春白書。と言って、穂種はでんぐり返りで表に出て行った。ドアの向こうでは男が待っているようすで、穂種が電波を飛ばしたのだろう。ドアの向こうでは、『男! 今から釣堀に河豚釣りに行くぞ! 米持ったか?』と言う声が聞こえた。『そんな事言ったって、河豚の唐揚は釣れねえゾ』そんな事を穂種と彼氏が話していた。
 可愛いな穂種。楽しく遊べよ。
「弟。今日は遅くなりそうだよ」
 又私は肘掛付椅子に腰掛けて、夕刻の空を見つめる。今だ体操服のなげやりは、地べたに寝転がり、既に寝息を立てていた。
「コイツ気持ち良さそうに寝てやがる」
 リアルで鼻ちょうちんを見るのは初めてだが、なかなか面白いものだ。いってみれば、なげやりだから許される行為なのかもしれない。ふふふ。
 仕方なく、投げやりの彼氏に電話をする。
「今すぐ迎えに着てやってくれ、そうだ。生徒会室だ」
 間もなくして、なげやりの彼氏がやってきた。
「フランソワ先輩、すみません」
 ドアを開けたそうそう、私に謝る。まあ、いつもの事だからいいさっ。と言ってやると、彼氏はなげやりを見ながら。
「うわっ。寝てる。めんどくせー」
 と言って、なに食わぬ顔で、なげやりの横に寝そべり、フランソワ先輩。連れて帰るのはめんどくさいので、俺も寝ます。と言い放ちやがった。
「お前もなげやりかよ……」
 又肘掛付椅子に座り、頭を抱えた。そうして、夕方から夜になりそうな時刻に、私は家に帰ることにする。
 寝ている二人に、お疲れ。と言ってパタリと、ドアを閉めた。


 2.
「ただいま」
 家に着いた途端私は限界を超え、自室に駆ける。バタンと戸を締めて、すぐさまPCを立ち上げ、タイムラグ。
「この時間だけは、本当に何とかならんもんかな?」
 FMタウンズ――タウンズドスの立ち上がりを、じくじたる想いで待ちわびる。
「良し」
 モニター関連のフォルダーを開き、例のソフトをクリック。弟の部屋をウォッチ、コレが私の日課だ。愛して病まない弟を、リアルタイムで情報収集しなければ――いつ、いかなる時に弟の身に何かあるか分からん。弟にとって、神に等しきおねーさまの当然なる勤めだ。
 眼を移すと、ぼんやりと愛すべき弟の部屋がモニター上に、映し出された。
「ふふふ、いいな。偵察用アイザック……コレがお前の力か!」
 一度は、ガンダム屋で偵察用ザクフリッパーにしようかと悩んだが、アイザックの頭から伸びる探知機が、私の心を抉りこんだ。もうコレ以外何も見えない。家に帰ってせっせと改造。愛くるしい弟にプレゼントした。確かホワイトデーだったような気がするが。
「あああ! 貴様、何をやっているんだ!」
 モニターに映し出される弟の部屋には、他校生女が居た。くぬお! 信じられぬ、弟に彼女が出来ていたなんてっ。あ、あ、あ……ありえない。
「そこかあ! クソ弟、今助けに行ってやるからな」
 ブレザーの上着をベットに放り出して、弟の部屋に駆け込む。そのドアノブを握り開けようとすると、ガチャガチャ、ガチャガチャ。シッカリと鍵が。
「大丈夫か! 大丈夫か! 弟。シッカリ気を持て、おねーさまが今助けてやるからな」
 アレは、あの女は、弟の彼女じゃない! 断じて違うぞ。何かしらの誘惑を掛けられて、洗脳されているんだ。ううう、私は違う。弟を洗脳などしておらぬ。恐怖政治を強いているだけだ。弟は意識を保ちつつ、私の下僕として君臨しているだけだ! うろたえるな。自己を保て、取り乱すな!
 ほおおお、今必殺のサガットの腹をも抉るこの拳。身体に纏うオーラを解き放て!
「素クールカッター」
 握り締めていたドアノブを、一気に捻る。めりめりめり……と、ありえない音を立てながら、ノブを元から捻じ切った。
「はあああああああ」
 根元から捻じ切ったドアノブを投げ捨てて、勢いに任せて弟の部屋のドアを蹴破った。中には楽しそうにしている弟と、見たことのある顔がソコのあった。
「貴様っ!」
「あら、久しぶりね。フランソワ」
「会長!」
 私の弟のベッドで横たわり、艶を出しながらゲームパッドを持って、淫靡にスーパーファミコンで戯れる――ツンデレ学園会長の姿が!
 ハタと弟の方に目をやると、気持ち良さそうにコイツの横で寝ているではないかっ。
「お前何しとんねん。イワスぞ、ごらあ」
「ちょっ、フランソワ関西弁、関西弁。アンタ自称フランス人でしょ」
「フランス人も関西人もあるかえ。弟、お前の横で気持ち良さそうに寝てるやないか。何かやったんやろ? いやマジで」
「怖、こわこわ、フランソワ落ち着きなさいよ。何にもしてないってばさ、ホントに」
「知るかえ! 自分、ええ加減にせえよ。バチコンかましたろか? デコに、いやデコに」
 すっと弟のベッドから飛び出した会長は、ドアの方へ逃げる。更に衝撃的な事実を叩きつけられた。――上ブラウス、下ショーツ。
「ぬああああ!」
 怒りと嫉妬。フランス人を舐めるな! ジェラシーが腹の底から巻き上がり、ブチンッと数万本の神経が引きちぎれる。私、フランソワ三十八世十八歳。意識は混濁の最中、思考は低下し狂い惑う。もう駄目だ。全く意味が分からん。
 ドアに、もたれ掛かったクソ外道は、足をバタバタとバタつかせジリジリとドアを開け、逃げようと四つん這いになる。
「ちょちょちょ、フランソワ。からかっただけよ、そうそう。からかってみただけだって。ね、ね、ね?」
 許さん! 貴様だけは断じて許さんっ。ふおおおおおおお…………
「素クールカッター」
 手の爪が掌に突き刺さり、跡が付く程固く拳を握り殴りかかる。その刹那。
「待った! アンタおもっきし打撲系の攻撃じゃない」
 会長の言葉で、一瞬立ち止まる。
「カッターって言うんだから、もっと素クールカッター的な攻撃しなさいよ」
 うううう。勢いだけで付けた名前で、こんな事になるなんて。しまった。さーっと私の頭に登っていた血の気は引き、少したじろく。
「ホントビックリしたぁ。フランソワ、少し落ち着きなさいね」
 会長は四つん這いのまま、部屋のテーブルの前に着き、横座りになった。
「アンタ、コッチに来なさい」
「ああ、スマンかったな。会長」
「まあいいわよ。昔のよしみで許して上げるわよ。私もちょこーっと、やり過ぎてたみたいだし」
「まあ、な」
 私もテーブルの前に着いて、横座りになる。素クールカッター。威力もデカかったが、反動もデカかった。


 ☆


 弟の部屋は高校生男子の部屋と言っても過言ではない程、男々していて良い香り。男臭がしていた。その中に私とツン会長、ベッドでスヤスヤと眠る弟が居る。何故か? 会長に説教を食らわされて正座している私が居た。素クールカッターがいけなかったのか……
 そう思いながら会長の長話に付き合っていた。
「だからね、フランソワはやり過ぎなのよ」
 いや、お前に言われたくないが。第一何故、お前は弟の部屋に居るのだ? 疑問は募るバカリだった。
「会長の言いたい事は解るが、しかし……弟の部屋で一緒にベットでお休みと言うのが、実にげせんな」
「なっ、何にもしてないわよ。ただね、ただフローリングが固かったからベッドで遊んでただけよ」
 ほほほほ。と、照れ笑いする辺りが相当胡散臭かった。私は自己の威厳を誇示すべく立ち上がり、ベッドの傍らに座り弟の頭を撫でた。
「ふっ、可愛いな」
 会長は見ない振りをして、おにぎりせんべいをかじりながら、スーパーファミコンのパッドを掴む。スーパーアレスタって、結構ハマるわね。かなり会長は気にしているが、誤魔化し方が会長らしいな。
 そろそろ本題に入るとするか……
「ソレで? 本当の目的はなんだ?」
「な、なによぅ」
「目的は何だ? と、聞いているんだ。只単に遊びにきた訳じゃなかろうに」
 ふうぅと一息吐いた会長は、パッドを床に置いてコチラを見る。マジマジと眼を見つめ合って、会長の口が開いた。面持ちは真剣そのもの、コレは何か在ると思い頭を撫でる手を止めて会長と向きを合わせた。
「私……弟君がす、す、好きなのっ」
 言葉を聞いた瞬間、立ち上がり、会長ににじり寄る!
「会長、冗談は程ほどにしないかっ。そんな事は嘘と分かっている」
「そんな事、そんな事ないんだから!」
 立ち上がる会長の肩を両手で押さえ座らせる。
「駆け引きはこのぐらいで良いだろう。お互い長い付き合いだ。そんな事でわざわざ来る会長では無い事は、重々承知だ」
 会長は脱力し、へたり込む。よよよよ……と、床へ横になりながら――
「酷い、酷いよフランソワ。真剣なのにぃ」
 ぐすぐすと言いながら泣いていた。そうして直ぐに立ち上がり――
「フランソワの馬鹿! 阿呆! 只の痴女!」
 凄い剣幕で私に罵声を浴びせ、少し茶掛かった髪を揺れ動かせて涙が飛び散り、逃げるように部屋を出た。
「ふう。結局誤魔化されたか……」
 目の前の床には、キャップが開いた目薬が転がっている。やはりな……アイツはいつもそうだ。上手い事逃げやがる。まっ、論破して誤魔化す私も同類なのかもしれんが。
 そうしていると、愛らしい弟君が起き上がってきた。
「あれ? あのおねーさんは何処行ったの? ってか、何でココに姉貴が」
「ふふふ、気にするな。ただお前を犯しに来ただけだ、心配するな」
 弟の頭を撫でてやった。
「ちょっ、十分過ぎる程身の危険を感じるんだけど……」
「今日は忙しいから、また今度な」
 会長の動向が気になる為、一時自室に戻り電話をする。その後にまた素敵過ぎて濡れまくってくる弟に逢いにくるか。
 私は、じゃあ又後でな。と弟に念押しして、すぐさま自室に戻り、机の上に在る携帯電話を掴んだ。ピポパと軽くボタンを叩いて、空の携帯を呼び出しながら椅子に座る。耳に携帯を当てた瞬間バイブが発動し、空か? と確認する。
 『は、ハイ……んっ。くっ、空です。どう、どう致しましたか?』
 こう来た訳だ。コイツ――やってるな。空にしては、かなり甘い声で鳴いている。何かと男と絡んでいる時に電話を掛ける事があるが、こんなにも可愛い声を出しているのは初めてだ。興奮しまくっていると見た。
「空。お前かなり色っぽい声を出しているぞ、お前にしては普通じゃないな」
 『ああああ。す、スミマセン。……ん、今学校の屋上で、くぅ……準備をしている所でっ。あっ』
「ほう。だからか」
 野外は初か。空は済みかと思っていたが、素クール属性。只のエロじゃないな。純粋に彼氏が好きで全てを捧げるか、そう考えると彼氏の方が変態になるな。くっくっく……
「空いいか? よく聞けよ。敵ツンデレの会長が愛すべき弟に接近して、情報を探りに来た。漏れたか漏れてないかは解らんが」
 『はうん。はっはっはっ、ハイ』
「星の屑作戦は修正、あんパン投下は中止。学園最終兵器トゥールハンマーを改造するが、電磁砲をそのまま敵本丸ツンデレ学園校舎に発射!」
 『んんんん……んんんん……すまない。少しだけでいいから、我慢してくれないか?』
「ん? 空。何か言ったか?」
 ふふふ、苦戦しているようだな。男、そのガッツが羨ましいな。ウチの弟ときたら、てんで駄目だからその力強さを分けて欲しい。そういっても素敵弟が目前に来れば、たじろいでしまうかもしれないが。まあいいか……アレはアレで母性本能をくすぐる。空は荒々しいほうが好みのようだ。多分空の事だ、そういう風に仕立てた。――仕上げたんだろうよ。
 『いえ、何も在りません。では、会長の仰る通りにしておきます。失礼します』
 まだ言いたい事が在ったのだが、伝えなければならない事は一応伝わった。これ以上邪魔をするもの気が悪いからな。男が、かなり限界だったから在りえないくらいに男が悶えていた。かっかっか。素クールとしてはいい事だ。
 そうして私は携帯電話を机の上に置いて、アイザックカメラで弟の部屋を覗く。
「はう。グッスリ寝ている。アイツは、何故こんなに寝れるのだ」
 すっくと立ち上がり、制服を脱ぐ。
「さて、と。参りますか」
 スポーツブラとコットンのストライブショーツを取り外して、弟の為にピンクと白のギンガムチェック上下フルセットを用意して、柄でもない下着を身に纏う。こんなもんかな?
 そう言って、自室を出て弟の部屋に戻った。


 3.
「ねーちゃん…………」
 ン? 何だ? もう朝か?
「ねーちゃん……」
 ふう。ああ、身体が気だるいなぁ。
「ぐう……」
 弟の声が聞こえて目を覚まし、カラカラに喉が乾燥してヴァーと声を発して乾きを確認する。目を開けるとソコには弟の栗毛のツムジが在った。
「がー、朝か」
 私は濁りきった声色で、があ。とゴロゴロと喉を鳴らす。
「ねーちゃん……」
 弟君は先ほどからねーちゃん、ねーちゃんと嬉しい事を言ってくれる。実際に私の事を呼ぶ時には、姉貴。と、言う癖に寝言では、ねーちゃん。
 実に素晴らしい。ブルリを軽く全身が痙攣して弟を想う。
 アレから私は最後弟の部屋に戻り、弟が爆睡しているのを確認してベッドに潜り込んだ。するすると弟の制服をぬがしてゆき、後は楽しいひと時をエンジョイメイクラヴ。まさにウサギの襲いかからんとするライオンのように、下半身を重点的に食い尽くした。
 いいな。凄くいいな。
 お互い裸でベットで寝て、弟越しに手を前に回せばソコに、まあ――在る訳だ。
「おはよう」
 弟の耳にふうう……甘い吐息混じりに言葉を掛ける。んん、ねえちゃん。と、身震いして身体を固める。
「ふふふ、弟それはイカンよ」
 むにむにむに……むにむにむに…………
「んんんん、ネエジャ」
「弟……はあはあはあ」
 あんあんと弟が鳴き、改めて弟の可愛らしさを再度確認する。コイツ……
「ちょっと、待て……待てろ言うとろ……きゃっ」
「ねえーねえーちゃん」
 がばっと、弟は起き上がり私に覆い被さる。ハタと弟を見てみるが、明らかに寝ていた。
「弟、お前……ヤル気か!」
「ねーちゃ」
 何だコレは。
 無意識の弟は、眼を瞑りながら私に優しく甘えてくる。
「うはっ、弟……可愛い。可愛すぎる」
 くはっあああ。ンンン――――私が弟の前でしか魅せない、エロい吐息がこぼれる。他の人間の前では虚勢を張っているが弟の前ではこんなにも女になるのかっ! そう思いながら、弟に全てを委ね好きにさせる。意識が全く無い弟は私の両手の自由を奪い、ひらすらに……ねーちゃん、ねー。と、言って上で暴れる。
「うご!」
「んあ!」
 はあはあはあはあはあ。弟は暴れるだけ暴れて、ベットから転げ落ちた。いい具合に頭から落ちて、可哀相な事になっていた。
「いってええ!」
「おーい大丈夫か?」
 ベッドから身を乗り出して弟を見る。ぼさぼさの頭を掻きながら、キョロキョロと辺りを見渡している弟の姿。シーツに包まる私の姿を見て、弟は。ねーちゃんなにしてんの? と、聞いてくる。
「お前なぁ、お姉さまを気持ちよく犯しといて、その言い草か!」
「えー。やってねーし……」
 本当に本能ってヤツは凄いな。弟に現状を分からせるべく、私はすかさず行動に移した。
「うり」
 がばっと包まっていたシーツを解いて、ハラりと腰の辺りに落とす。嗚呼、美しすぎるお姉さまの玉の様なお肌が。あらわになり、弟は唖然とした顔で固まる。
「困るなあ、いつも見てるくせにぃ。そ、れ、よ、り、も、だ! ココを見ろっ弟、ココだココ」
「っつ!」
 指を向けた先に、弟好みのぷにっとして内側の両フトモモが引っ付く窪みに、弟の分身が……在る! 私の大好きなものだ!
「コレを見て貴様。何もして居ませんと言えるのか? えっ、言えるのか?」
「姉貴ぃ……」
「うり、うり」
 私の真っ白な、且つ珠の様な肌に垂れ流れる弟のソレを見せ付ける。すると弟は、すんません! 姉貴! と、絨毯に頭を擦り付ける。
 いやいや、そこまでしなくとも……
「まっ、お姉さまが大好きだ。と、いう事が分かればいいんだ」
 そう私は弟に伝えて、ベットの頭の辺りに在ったティッシュペーパーを3枚取り出して、弟のソレを拭き取った。思いの他凹んで居たので申し訳ないような気になり、んーそうだなあ?
「弟、ちょっと来い」
 と、呼び寄せる。
「ああ」
 弟が立ち上がったので手で合図をし、自分の膝を叩き弟へ膝の上に座れと安に指示した。おいおいおいおい。流石と言うべきか? 弟は膝に座ったのは確かだったが、まさかコチラを向いて胸を合わせて座るとは思いも寄らなかった。
「姉貴。まだまだ甘いよ」
「お前なあ。……まあ、いいか」
 そう言って弟を抱きしめる。
「姉貴……あったけー」
 お互い裸のままで抱きしめ合った。
「暖かいな。お前ねーちゃんの事好きか?」
 そう聞くと、天井を見上げ、鼻面をポリポリと掻きながら弟はポツリと小言で答える。
「まあ、そういう事にしといて」
「そうか」
 少しだけ満足しながら、又――眠りについた。


 4.
「あらららら~姉貴ぃ、えらい事になってるねぇ」
「コレはまた派手にやってくれるな……」
 下方修正のち星の屑作戦実行当日。朝から弟と一発やらかして遅れて学校に来てみたら、弟の言った通りにエライ事になっていた。弟の運転で自転車二ケツで素直学園校門前に到着したら、玄関付近では渡辺系列の学生が――あれれれれ~。と暴れ回っていて、グラウンドではツンデレ系列の学生が――たまたま素直学園に来ただけなんだからね。と、『ちょっちょ、たまたま。ちょっちょたまたま』五月蝿く吠えていた。
「あいつ等にはボキャブラリーというモノが皆無なのだろうか……ソレを言っておけば落ちると思ってやがるからな」
 と、気持ちよく毒を吐いて校門前に仁王立つ。
 携帯電話には着信履歴は無く、私に連絡を取れないほど切羽《せっぱ》詰っている事は分かっている。過度に暴れまわってる両学生で、学園内はごった返しになっており弟に指示を出す。
「弟、よく聞け! コレからB校舎横駐輪場まで、駆け抜ける。死ぬ気で漕げ」
「おー姉貴。いい顔になったな」
「ふふふ、素直学園生徒会長フランソワ様が重役出勤だ。お出迎えは嫌に豪勢ではないか……くっくっく」
 弟の顔がキリリと締まり、行こうか、姉貴。と、サドルに跨り合図を出す。胸に弟の格好良さが響いたが、今はそんな事も言っては居られん。先ほどまでは弟にもたれ掛かって荷台に横座りして居たが、素直学園代表として威厳と厳格、存在感を誇示するべく荷台に立ち上がり、弟に肩を持って一気に駐輪場まで向かう。
「姉貴……良いぜ」
 ふっ。血は争えないか……いくら誤魔化してみた所で、いくらフランス人やグリーンの髪にしてみたところで、実の姉弟だな。ココゾという場面では男らしくなり、凛々しい面持ちで私をみつめる。――今は濡らしている場合ではないな。
「お前に任せるぞ、弟。発進!」
「おりゃああああああ」
 後輪から粉塵を撒き散らしながら、駐輪所に向かって爆走する。スカートは翻り、弟好みなピンクと白のギンガムチェックのショーツを覗かせながら自転車は、全力で直進! 前に立ちはだかるツンデレやら渡辺さんやらを薙《な》ぎ倒し、再度惚れ直した清清しく凛々しい弟が、漢臭い汗を垂れ流しながら爆走して駐輪場に辿り着いた。
「姉貴、着いたぜ」
「ああ。さあて……行きますか」
 B校舎から渡り廊下を使い、A校舎の生徒会室までの道中を、弟と共に進行する。
 駐輪場から少し歩き、三段の階段を一歩づつ感触を確かめながら、B校舎のドアに触れる。中の有り様を想像しつつ溜め息を一つ吐いて、心を落ち着かせた。
「なあ、弟。えらい事になっているかな?」
「想像の上を行くのは確かだろうさっ」
「ああ、そうだな」
 弟に背中を押され、そっとドアを開けた。
「ンン!」
「おーすげえ、すげえ。やってるねー姉貴」
 ツンデレ属性や渡辺属性にボキャブラリーの貧困さを責め立ててはみたが、この光景が視界に入ってしまうとチープな表現でしか捉える事しか出来なかった。――目前の廊下を見渡す限り魑魅魍魎《ちみもうりょう》として居て地獄絵図としか言えない状況下で在った。
 当学園の男子生徒はツンデレにからかわれ渡辺さんに萌え上がり、倒れこんだ男子生徒の絨毯が出来上がる。鼻血か何かで制服は血まみれになり、紺と朱で青紫色に絨毯は変色し、兎角《とかく》廃人同様の人間が積み上がって居た。
「想像を絶する出来上がり方だな、弟よ。……ふふふふふふふ」
「あ、姉貴?」
 ふわりと私の脊髄に独裁属性が舞い降りてくる。朝礼で星の屑あんパン作戦を宣言した、あの感覚。一度、素直空に素直エンパイア姉貴属性といわれた事が在ったが、安に独裁者と言ってしまっても過言では無かろう。くっくっく……
 弟に渾身の指示を出す。時間が全てだ。今正に属性が乗り移った最中、素直フランソワ独裁政権発足した瞬間に脳内に今後の展開が構築していく。
 即ち自己により積み上げられた理論の頂点は勝利の一文字だけだった。
「弟、よく聞け。即刻お前は屋上に進み、例の兵器を立ち上げろ」
「例の兵器って、あの……素直式科学兵器局地型対空迎撃用集中電磁砲の事か?」
 真剣な眼差しで、私の肩を掴む。
「そうだ。昨日の晩にツンデレがお前に近づいて情報を探りにきた。この現状を見たら分かるだろ?」
「ああ」
 弟は答える。
「立ち上げには三十分時間が掛かる。猶予は無い。今すぐ走れ!」
「あああ、ああ。分かったよ。姉貴ぃ」
 肩を掴むのは止めた弟は、走り出したと思ったらすぎさま舞い戻り、そうして。
「んんんんん」
「頑張れな、姉貴」
 私の身体を強く抱きしめ、歯が当たり鼻を潰す程口を付けて――愛を感じた。
「……弟の癖に、生意気な事を言いやがる」
 屋上へ向かって走り去る途中振り向いて手を振る弟を、呆然と眺めながら、ぽつりと呟いて居た。
 独裁者の中に女の部分を持ち合わせながら、私は生徒会室に向かう。屍のように転がる、男子生徒で出来上がった絨毯の上を、胸を張り歩き続け着実に進めていく。途中ツンデレに囲まれては、属性的に手詰まりがっ、底が浅いんだよ。と言っては蹴散らし、渡辺属性に絡まれては、一発屋。と吐き捨てて道を進める。
 そうしてA校舎とB校舎を繋ぐ渡り廊下に差し掛かった。
「会長、お待ちしておりました」
 丁度A校舎の入り口付近に、素直空副会長の姿が在った。
「待たせたな、今の状況を説明しろ」
「はっ、只今の戦況は……」
 深々と頭を下げた空は眼鏡をいつもの様に光らせて、一通りに報告と状況の説明に入る。
 この渡り廊下も青紫の絨毯が出来上がり、ツンデレや渡辺が動き回っていた。


 ☆


 まあ、気持いいぐらいに転がって居る青紫の絨毯の上を歩く。歩くたびに「あん、あはん」と、クソ属性どもに骨抜きにされた男子生徒が、呻き声を上げる。そのような事は微塵も気にせずに、副会長と共に生徒会室へと向かっていた。
「穂種はどうしている?」
 そう聞くと、空は手持ちしていたバインダーを確認して答えた。
「只今彼氏と共に、ボーリングをしています。場所は屋上へと唯一開放しているドアの前です。……三階の通路なります」
 唯一開放しているドアは、A校舎の突き当たりのドアだ。戦術的に、突き当たりのため両方から挟まれる事は無く、各個撃破できるすんぽうか。穂種は頭はいいが、彼氏の功績だろう。穂種の彼氏をしているぐらいだ、基本的に頭の回転と理解力が無ければ、会話すら成り立たない。
「解った。なげやりは何をしている」
 急ぎ足で廊下を歩きながら、空に確認する。向かってくる属性に対して、蹴りを入れて対応する。実に面倒臭い。
「なげやりは、屋上で待機。外壁をよじ登ってくる学生に対して、投下予定だった『あんパン』を投げつけております」
「そうか」
 なげやりは、あまり心配はしていなかった。トドのようにすぐうな垂れるが、基本的には空と張る秀才だ。ただテスト中に面倒臭くなって寝てしまうだけなので……だから素直なげやりか。
「彼氏は?」
「彼氏……ですか? ハイ、なげやりの横で寝ています」
 彼氏はただのずぼらだな。
「空! 予定変更だ。これから屋上に向かうぞ。今、弟を屋上へ向かわせている。理事長との調整はどうか?」
 空も絡んでくるツンデレ、渡辺さんを完全に無視して、冷め切った視線を突き刺す。しらけて薄ら笑いを眼力で押し通し、属性どもを蹴散らす。まだ私の方が可愛げがあるな。
「調整は万全です。昨日の深夜素直春日様から『好きにしていいよ。』と、言質を取りました」
「ふふふ……お嬢様は相変わらずだな。好きにしていいよ、か……。本当に好きにして後処理を任せてもいいのだから、安心して好きに出来る。ありがたい事だ」
 空の肩を叩き、「ギャルゲーの主人公のような男は居るか? 代表選手みたいな奴だ」と聞く。うちの学園に一人ぐらい居るだろう。空は「居ます。腰の重い男ですが、どうとでもなりそうです。どう致しますか?」と答えた。
 屋上へ行く間に、色々と考えたが、やっと答えが見つかった。下方修正し、勝つべく案を考えなければならなかったが、春日お嬢様の言質で腹は決まった。くくく……
「空。お前は今から放送室へ向かえ、到着し次第携帯に連絡を入れろ。指示する」
「分かりました。代表選手はどうしますか?」
「私が直接話しをつける。何処にいる?」
 敏速に行動を起こす空は「屋上です」と言って、一階にある放送室へと駆けた。三階の廊下に居る空と私は、即様行動を起こす。廊下でボーリングの弾を本気に投げる穂種は、すこぶる楽しそうだった。ごろごろとボールを転がして、渡辺さんが弁当ごと吹っ飛んでいた。カコーンと気持ちよく衝撃音を響かせて、吹っ飛んでいく渡辺さんは圧巻だった。
「ストラーイック!」
 と手を広げ飛び跳ねて、大喜びではしゃいでいる穂種を、敵に回さなくて良かったと切に感じた。ボコボコと倒れ込む渡辺さんを見て、あの喜びようだった。まあ、可愛い妹だから敵に回ると、私は負けを宣言するだろうがね。穂種は「あーフランソワ!」と、嬉しそうにすすり寄ってきた。本当に子犬のようだ。かわいい。
「守備の方はどうだ」
 頭を撫でてやると、「えへへ、渡辺さんの弁当、全部食べちゃった。米うまかったぞ」そう穂種は言う。突き当りでは彼氏がいそいそと、ボールを用意していた。実にご苦労。
「屋上へ行くぞ。最後もストライクを見せてくれ」
「おう。分かったぞ!」
 そう言って、穂種は7号の黄色いボールを掴む。グイッと高らかに腕をあげ、真下に一気に落とし、ボールを滑らせた。廊下《レーン》は、学校なだけにベタレーン。綺麗に斜め三十度に回転し、先頭の渡辺さんヘッドピンに向かって鋭角に繰り込んでいく。「いけぇ! 俺のマグナムーッ」。
 穂種の叫び声と共に、学園指定のボールは渡辺さんのスネにめり込み、向かって左斜め後方へ吹き飛ぶ。ヘッドピン《わたなべさん》はジグザグに、どう属性にぶつかりながら、十人一個集団を見事粉砕してみせた。「うっし! オラ悟空。色々混ざってるぞ、ジッチャン」穂種は手の平を胸で組み、きゃっきゃ彼氏とじゃれ合う。
「流石だな穂種。えらいぞ」
 と、再度穂種の頭を撫でてやる。廊下で、うじゃうじゃと湧いていた渡辺さんは全滅。屋上入り口の鍵を閉め、一気に屋上へと駆け上がった。


 5.
 校内の、ハードに乱戦の模様を呈していた闘いを他所に、屋上は静かだった。素直なげやりは、空の話し通りにあんパンを、下からよじ登ってくる学生に目掛けて投げつけていた。陽は上々。射し込める陽の光を遮るように、手を額に当てた。
 私は例のギャルゲー的主人公とコンタクトを取るため、空に携帯電話を掛ける。呼び出し音。がちゃりと空は出る。空は息を切らせながら、「空です。会長こちらも放送室に着きました」と。私は横にいる穂種の頭を撫でながら、「ギャルゲーの主人公はどこにいる?」と聞いた。穂種は「フランソワ。この砲台撃っていいのか?」と、とても撃ちたそうだった。
「会長、ギャルゲー的主人公は素直なげやりの彼氏です」
「そうか! 了解した。空は今から私がグラウンドの中心に居ると、放送してくれ」
「そんなことして、会長大丈夫なんですか?」
「まあ、気にするな策はある」
「はい。分かりました」
 穂種に「あの砲台で遊んでおいで」と声を掛け、私はなげやりの傍らであんパンを投げる彼氏に近づく。屋上の外壁にへばりつき、豪快にあんぱんを投げる彼氏の肩をたたいた。「よっ、なげているなぁ」彼氏は寝そべっていた華奢な体をダルそうに持ち上げて私に視線を合わす。「どうも」と会釈した。昨日確かに会ったが、ギャルゲー的主人公には見えんが、コイツがモテるのか? まあ、見栄えは悪くは無いが、うちの弟の方が格好いいだろう。違った、濡れるだろう。別にいいか……
「単刀直入に言おう。餌になってくれ。渡辺さんとツンデレ。その馬鹿どもを釣りあげたい。デッカイ魚を釣るには君にしか出来ない。いいな」
「あっそうなの」
 そういうと、彼氏は彼女――なげやり――に聞いた。「ねえ、餌らしいんだけど、いいかな?」なげやりは「いいのではないか、死にゃあしないだろう」と返した。
 この二人はいいキャラクターをしている。まずもって話が早いからいい。どこぞのツンデレとは大違いだ。いちいち言い訳をいうからな。まどろっこしくて、見るに耐えない。「頼んだぞ」と再度彼氏の肩を叩く。「まっ死んだら骨拾ってね」と彼氏は言う。なげやりは「わかった」と言っていた。
 踵を返し、学園最終兵器トゥールハンマーに向かう。華やかに笑う弟が待っていた。
「弟待たせたな。どうだ? 準備は上々か」
「まあね、ぐおんぐおんいい音鳴らしてるぜ」
 キラリと白い歯を輝かせて、実に男前だ。今すぐにでも抱きしめて悶えさせてやりたかったが、そうもいかない。にしても、校庭で別れて以来久しぶりだったため、思い切り抱きしめてしまった。
「姉貴。気持ちは分かるけど、今はだめだよ。後で――ね」
 きゅぅぅん……子宮が疼く。ぴくぴくと膣痙攣が起こり、脳がとろけていく。ヤバイ、こいつぁ危険だ。今だ男前の弟になっている。馬鹿みたいな愚弟も可愛らしくていいのだが、今の弟は惚れる。壊れるぐらい抱きしめて欲しい。今すぐ唇を奪って欲しいと、切に願うと共に切なくなる。息があがる。この男に壊されたい。
「いまじゃ……駄目か? 弟」
「駄目。折角電源入れたんだ。早く姉貴の星の屑作戦――魅せてくれよ」
 ぽんぽんと、学園最終兵器トゥールハンマーの鉄板を叩く。未練がましかったが、抱きしめていた弟をそっと離し、操作盤に手をかけた。弟は「座標は?」と聞く。私は「ああ、グラウンド中心だ」と答えた。座標をセット。しかし、弟は「あれ」と驚いて、まっすぐに視線を私に合わせる。
「姉貴……座標軸が、あきらかに赤い文字でマイナスついてンだけど。どゆこと?」
「屋上からグラウンドの中心を狙うと、位置的に屋上の床をぶち抜かないと駄目なんだ」
「と、いうことは……」
「ああ、床をぶち抜いて、三階の教室の窓からグラウンドに発射だ」
 弟の表情はイキナリ引き締まる。いつもの馬鹿弟なら「姉貴やめろよ~」とか言って私を喜ばすが、男前の弟はこの現状に、大いに喜んでいるように思えた。張り詰める空間。しかしやわらかい。操作盤に手を当てていた私の手に、弟の手のひらが包み込んだ。きりりと目尻が締まって「やってやろうじゃんか、姉貴」と耳元で囁く。こいつ……私を軽く逝かせたいのか? 数え切れないほど逝かせたいのか? いや、まあ。いくらでもそそり立とうそれを、弄んでもいいのだが。心を掻き回されてぐじゃぐじゃになる。これ以上は弟と一緒にいると、終らない性交をしてしまう。
 私は「弟、外壁に備え付けている緊急用のすべり台を用意してくれ!」と伝えて、距離を取った。
「了解! デッカイ花火打ち上げてくれよ」
 そう言って走り、ここから脱出するために緊急用のすべり台を用意する。タイマーセットし、私は学園最終兵器トゥールハンマーのスイッチを押した。
「そろそろ空に放送が来るぞ。脱出! なげやり、穂種、主人公。行くぞ!」
 シッカりと指示して、皆すべり台の前に集まる。折り畳まれていたすべり台を、弟は外に向かって放り投げる。一気にすべり台へ空気が入り、ボコボコと音を立ててグラウンドに向かって伸びていく。「弟、先に行ってみんなを受け止めてくれ」
弟は、今までに見たことの無い最高の笑みをこぼして「俺に任せとけよ。姉貴は最後尾をよろしく」と……なれなれしく私の額を押しやった。コツンと。
 流石の私も胸が苦しくなって、その場で立ちすくむ。吐息のような甘い息を吐いて、「ああ」と答えていた。何度も――コツンが――胸の奥で鳴り響いていた。弟は「じゃっ、姉貴」と言って、しゅるしゅるとすべりおりた。「あっ」と吐息を漏らしたが誰も聞いていなかった。少しだけ安堵した。
 弟がグラウンドに足をつけるのを確認して、順々に仲間をすべりおろす。穂種には「暴れたら死ぬぞ、彼氏の背中に抱きついて降りろよ」と促した。
「分かった。おとこぉ。ボーリングの玉持ったか?」
「あほ、死ぬきか?」
「そうなのか? いつでもどこでも米俵を持つつもりで生きろ」
「じゃあ、穂種が米俵なげろよ」
 二人の会話は終わり、なかよさげにすべりおりた。やたらめったら男の背中に胸を押し付けているようにみえたが、真意は……たぶん。確信犯だろう。
「さあて、私も降りようか」
 そう言って、すべり台に手をかけた。瞬間――「ちょっと待ちなさいよ、フランソワ」――昨日聞いた甲高い声が聞こえた。すぐに想像はついた。私は頭をぽりぽりと掻いて振り向くと……そこには。そこには――ツンデレ学園生徒会長が――いた。


 ☆


「ええっと、どちらさん?」
「ちょっと、冗談はやめてよね。フランソワ」
 会いたくない馬鹿に会ってしまった。ツンデレ学園会長だった。まあ、いつものように眉間をしかめて、海苔のような眉をつり上げていた。あまり時間がないのだがなぁと面倒くさく思いながら、相手をする羽目になった。屋上にある学園最終兵器トゥールハンマーは、竜が威嚇するように電磁波が放電していた。
「いやあ、あまり関わりたくなかったものでね」
「コッチは用が大有りなのよ」
「そうですか……」
 時間が無かった。コイツの馬鹿をやっている間にも、空の放送が始まるからだ。とりあえず、意味の無さは分かってはいたが「明日に出来ないかな?」と聞いてみた。
「なにゆってんのよ、馬鹿じゃないの! よくもまあうちの生徒達をやっつけてくれたわねぇ」
 コイツのよくやるポーズ。腰に手をやって、旨そうにごくごくと牛乳を飲むように私に指差した。返答も面倒くさいが放っておくわけにもいかず、仕方が無しに言ってやる。
「会長の所が先に仕掛けたんだろう。当然正当防衛だろうが、第一うちの弟から情報を聞き出すなど、コスイの一言だな」
「あああ、アレは弟君が好きって言ったじゃない」
「そらぞらしい。建前は結構だと、昨晩通告したじゃないか。腹を割れっはらを」
「なんですって! アンタね。ウチが攻める前に、その兵器ぶっ放す気マンマンだったじゃないの、むちゃくちゃ言ってくれるわね」
「むぅ……」
 そこまで知られていたのか……愚弟――勘弁して欲しいが――そこが可愛い。簡単に騙される所が、もはや「お前なぁ、簡単に情報教えるな。バツとして、私を抱け。漢の限界をみせろ」。そう言ってくれと言っているようなモノじゃないか。母性本能がくすぐられる。ふふぅ。
「ちょっとぉフランソワ。よだれ、涎出てるよ。汚い」
 しまった。出ていたのか。実のところ、涎では済んでいないが。さあて、どうする。すると、何故か会長は拳を握り締め、構えを取った。身体を流して横を向き、右手は前に突き出し左手は腰元へ。両足を広げ、膝を少し屈めた。面をこちらに向けて臨戦体勢だ。
 強い風が吹いた。ごごごぉぉ――会長の茶髪は風に舞い、顔全体に纏わりつく。が、なおす素振りはみせなかった。スカートは翻り、すらっとした細い太ももが覗く。……どういうつもりだ。
「フランソワ。一回しか言わないから、よく聞いてね」
 会長の肩が上下に大きく動く。私を直視したまま、微動だにしない。こうなってしまっては、意見交換など通用しないだろう。そう思い、私は構えた。
「なんだ? 会長」
 だらりを全身の力を抜く。腰のみ力を入れて、どのような状況になっても対応出来るようにしておく。一撃必殺! これが私の闘い方だ。必要以上身体に無駄なエネルギーを込めず、素早く動き、一撃で仕留める。素クールカッターの極意。背を丸め両手をぶらぶらと下げて、前かがみになった髪は、バランと垂れ下がる。
「前髪の隙間から覗く真っ赤の眼は、獣そのものね。まるで虎のようよ」
「くっくっく……条件は何だ。聞いてやるから、答えるんだな」
 ジリジリと間合いが詰まっていく。お互いにすり足で、確実にその距離を縮める。射程距離はお互い一緒だ。密着により打撃。すこし射程距離がある蹴りは使わない。小中からの喧嘩で、お互い不得手なのを知っている。懐にどう入るかだった。それが全てだ。
「私の魅力で弟君を落とすわ。手前の“萌”戦闘力は、私たちツンデレの方が上。嫌ならこの兵器を止めなさい。そうで、なければ――」
 嬉しそうに会長はニヤリと含み笑い。眼がギラついていた。会長の言いたい事など、既に分かっていた。初めは学園やしがらみ、その他あったのだろう。だが今は、この闘いしか見えていないだろう。
 実際に会長ともなるツンデレが、弟を毒牙にかけたら一瞬の惨劇だ。愚弟など、大富豪で3のカードを出すほど簡単に虜になるだろう。初回ダメージが半端なく強い。長期政権を考える素直クールにとって、短期勝負をツンデレに仕掛けられたら、まず持ってひとたまりもない。属性の特性を存分に発揮される宿敵。
「お前に勝てばいいんだな、会長」
「――まあね、そう言うことね」
 会長の最後の一言をかわきりに、お互いに無言になる。強く風が吹く中で、相手の鼓動だけが聞こえ合う。――はぁ――はぁ――と。汗が額に滲み出る。鼓動が高鳴る。もう会長と私の距離は半分まで来ていた。 いつ仕掛ける? 距離をはかる。見合う。私の間合いはギリギリだった。
 小中と、幾度もなく渡り合ってきた仲だった。戦法も手の内も分かっていた。思考も全て、互いに曝け合っていた。身体が勝手に反応する。会長の戦法は――受け。徐々に距離を狭め懐に入り一撃。攻めて来られれば、ジャブ程度なら頭をぶつけてガード。一気に懐まで食い込んで、一撃を喰らわす。ストレートクラスなら、避けて一撃。避けれなければ負けていた。攻めて来なければ、距離を縮めるだけだった。
 私はその戦法に打ち勝つべく、速さと一点に力を集中させる術を覚えた。分散された力を手刀に集中させた。そのために身体が脱力するが、力がしっかりと手刀に乗るように腰に力を残していた。そのうえ腰で脚を動かせるように修行して、速さを身につけた。これで会長と私の勝率を五分になった。後は背負うモノ――想いの重さだけだった――
 コレが会長との闘いが、最後になるか分からないが、背負うモノ。――想いの重さ――には自信がある。会長はたかだか、学園の存亡。責任感のみだ。私は違う――溺愛する弟が絡んでいた。弟を想う気持ちは誰にも負けない。『裏をかいてやる』。
 瞬時風がやんだ。刹那――空の放送が学園中に響き渡った。勝負は一瞬だった。
 “全校生徒ならびに他校生一同。等学園生徒会長は、グラウンド中心部に陣取っています。御用の方は取り急ぎお進み下さい”
 私は放送の準備はしていたが、会長は全くしていなかった。すなわち意識、集中力が秒単位で途切れた!
「くっ!」
 凄まじい前から受けるGを感じながら、会長に向かって一直線に駆ける。前のめりのまま、風を切って突き進む。会長の意識が回復し事に備える前。コンマ数秒のうちに、会長にとっては思いもよらない、私にとっては確信犯的にミドルキック。会長の腰に足の甲で蹴りを見舞う。
「はっ!」
 コンマ遅れて、いつもなら出すはずの無い下から打ち上げるような拳を繰り出す。「おそいっっ」――空を切った拳を確認して、私は叫んだ! 直後。フック気味に腹部へ渾身の手刀を放つ。ズブズブとめり込んだ。会長は「げぼっ」と嘔吐し蹲《うずくま》る。ぬるり……手刀を抜き取った。
 一撃必殺。弟の想う分だけ会長を上回った。そうして、素直式科学兵器局地型対空迎撃用集中電磁砲は無言のまま発射された。数秒遅れて轟の如く衝撃音を響かせて、地響きが止まらなかった。


 ☆


 しまった事の連続だった。私は屋上に蹲り、頭を抱え込んでいた。
「どうしろと言うのだ」
 ぶつぶつと言葉を漏らし続けた。捻りきれない蛇口から、ぽとぽと雫を垂らすように、私は呟き続けた。目の前に気絶した会長の姿。その先に目をやると、放射の影響で、コンクリートを貫通し自らの体を沈下させている学園最終兵器トゥールハンマー。
 さすがの私も絶体絶命と感じ取れた。
「どうしろと……」
 このままだと学園最終兵器トゥールハンマーが発射されて屋上は崩壊。会長ともども巻き込まれるのは明確だった。しかし、気絶している会長をおぶりすべり台は降りられない。どのような計算式を使用して考えてみても、体勢を崩して会長と共にグラウンドに落下するだけだった。
「フランソワ……」
 会長の声だった。息絶えそう程弱々しい声。
「フランソワ。私を置いて、逃げなさい……私、負けたんだから……いいわよ」
 会長らしい苦い思いのする、綺麗な笑顔だった。私には会長のように華やかな笑顔は作れない。悔しいが、惚れてしまいそうになる。会長は手を差し伸べ、「私のことはいいから、さっ」とつづけた。
 私は「ああ、そうか……という訳には、いかんだろう」と、笑顔を作ってみせた。私の笑顔は、あいかわらずヘタだった。「無理しちゃって……」そう言って会長は、また気絶した。
 会長に「おやすみ」と答えてあぐらをかく、会長の腹にめり込むほどの手刀を放った為、当分動けないのは分かっていた。渾身の一撃をくわえたのだ――私の手ごたえが、そうハッキリ私自身に伝えていた。
 ――手詰まり――と、反響し合うように心に響き渡った。空を眺めた。私の心とは裏腹に、雲一つ無い晴天模様だった。
 まるで投げやりのように、あぐらをかいて座り込む私は、絶望の縁へと追いやられる。
「弟、皆どうしているのだろうか……トゥールハンマーを受けて吹き飛んだのだろうか……」
 まさかの会長の出現で、予定が大幅に狂ってしまった。ここも、もうすぐ崩れる――後は死を迎えるだけになってしまった。
 予定では、やげやりの彼氏をグラウンドに立たせ、エロゲーフラグ的理由でツンデレや渡辺さんを集結させて、学園最終兵器トゥールハンマーを一撃粉砕。上空に吹き飛んだ敵学園生徒により、「コレが星の屑だ! 人が降ってくるぞ、弟」と、素敵な段取りが組めたはずなのだが。
 会長と涙の会見をしていたら見る暇もなく、グラウンドには既に生徒たちが横たわっていた。もう吹き飛んだ後だった、皆巻き込まれているのだろうか?
 崩れ去る屋上は、なだらかな微風が流れていた。――地響きが、轟の如く木霊した。屋上が崩れ出した!
「うりゃ」
 私はすぐさま会長を抱える、コンクリートに亀裂が走る、基盤チップのように学園最終兵器トゥールハンマーを中心に、音を立てて崩れ始める。そこへ……
「姉貴ぃ!」
 弟の声がした。
「お前、何やって……」
 半壊した屋上の階段室から、弟が顔を出した。「姉貴ぃ、今すぐすべり台に入れ! そのままグラウンドに逃げるぞ」弟は眼が据わり、真剣な面持ちたっだ。
「そんな事言っても、死ぬぞ」
「後で説明するから、今すぐ行けっていってんだろ!」
 弟の罵声が飛ぶ、そのまま私の所へ弟は駆け出し、会長を背負った。「時間が無いんだよ姉貴。俺に任せとけ、伊達にあんたの弟やってんじゃないんだから、信頼しろって!」
「お前……」
 決心がつき、弟の指示に従う事にした。もう四の五の言っている場合ではなかった。弟の芯の強さに、胸が張り裂けそうに熱い。焦がれて燃え尽きそうだ。
「弟よ、こんばんはお前の大好きなプレイをしてやる、だから死ぬなよ」出来うる最高の笑顔を魅せた。
「おっ姉貴いいねえ……じゃあ、目隠しアンド手首縛りプレイな。行けっ姉貴」
 ドンと弟に背中を蹴られ、私は屋上の縁と思しきすべり台前へと走り出す、その場に着いて振り向いた。弟はヨレヨレと会長を背負いながら、こちらに向かって進んでいた。苦笑する弟は脚を蹴り上げて、「行け」とジェスチャーで表していた。「弟愛しているぞ!」無我夢中で叫んでいた。弟は「分かってるよ! 姉貴」と脚を上げ、すべり台へ乗り込めと催促をする。私は覚悟を決め、乗り込んだ。
 しかし、弟への視線の先に学園最終兵器トゥールハンマーがうねりをあげて崩れ落ち始めていた。電子を放電しながらパリパリと花火のように放射し、床下へめり込む。
 ――学園最終兵器トゥールハンマーの中心部に光が集中してた、誤作動を起こしていた。再度放射寸前だ。
「弟、会長ぉぉぉぉぉおおおお」
 どっと涙が溢れ出す、黄ばんだオレンジのすべり台の中を滑る私の眼から、涙が飛ぶ。涙は重力に負けて宙に浮かび、後から追いかけてくる。勢いよく滑り降りた私は、何とか無事にグラウンドに辿り着いた。
「フランソワぁ!」と、仲間が駆け出して私を迎えてくれた。だが、弟と会長の事が心配で居ても立ってもいられなかった。
 見上げる空、屋上からは瓦礫が降り注ぐ、メキメキと崩れ落ちながら、粉塵を撒き散らしていた。もう、言葉すら出なかった……弟、会長。
 私は呆然と立ち尽くす。うな垂れて辺りが眼に入った……何故かマットがあった。大きい、縦二十メートル横二十メートル高さ一メートル程の巨大なマット。側面には、素直学園科学研究所用具と記載されていた。すぐさま気が付いた……弟、お前、飛ぶのか、と。
「会長!」と、副会長空の声だ。「ご苦労様でした、まさかこんな結果になるとは思わなかったですね」
「空、準備が良すぎるな、どういう事だ。経緯を報告しろ」
「弟様が、会長の眩いまでのオーラが見えたと、そう仰られまして……これは何か問題が起きた、姉が責任を取るから急いで屋上に行ってくる。今にもトゥールハンマーが発射するから、緊急用にとりあえずグラウンドにマットを用意してくれと。そう言われまして、全員で体育館からマットを運び出しました」
「うちの理事長は、何と言っている」
 ファイルから別紙を取り出して、空は眼鏡を上げる。
「フランソワに一任している、報告楽しみにしている。だそうです」
 理事長は、面白ければ何でも良いお方だ。このまま終るわけには行かないか……現状で言えば弟と会長が屋上から飛び、マットに着地して成り行き的に星の屑作戦は終了となる訳だが、理事長はそれで満足して頂けるのだろうか。
 歯痒いな、弟と会長の事を心配したいが、作戦の事も心配しなければならないとは、因果なもんだ。
 弟を待つ、暫しの沈黙が流れた。風は止み、時間が停止したかのように辺りは静まり返る。ゆっくりと弟が会長を背負い、やはり屋上の縁と思しき場所に立った。流石に表情までは分からないが、迷子になった子供のように心細い様子だった。
 今日は予想外の展開がひたすらに続いたが、会長が気絶していて良かった。意識があるようなら「ちょっとちょっと」と暴れまわったに違いない、人命に関わる場合世の中うまく出来ているものだ。――そして携帯が鳴った。
「姉貴、流石にこの高さから飛び降りるのは怖いな。姉貴が欲しいよ……」電波を通じて、弟の弱々しい声音が聞こえた。私は即座に答える。
「マットに来い、思い切り抱きしめてやる。大丈夫だ、私が確りと受け止めてやるから」
「ああ、分かったよ姉貴、楽しみにしてる。一つだけいいか? 姉貴」
「どうした、弟」
 沈黙が流れ、風のノイズだけが電気信号に変わり、携帯越しに私へ伝える、緊張が走る。弟のうねる声が耳を打つ。そうして弟が言葉を発した。
「ねーちゃん……愛してる」だった。
「……知っている、今更だよ弟」
「冷たいなぁ」
「すまん、照れ隠しだ。そう言われると、私もビックリするよ、ありがとう」
 鼻頭をぽりぽり掻く弟の癖を確認して、ダイブする準備に入った。
 私はマットの中心部へと駆ける。弟越しに覗く学園最終兵器トゥールハンマーは、太陽が巻き上げる火柱のような放電を撒き散らしていた。携帯は切れる寸前、女子の呆れた声が聞こえた、会長の声だった。
「何やってんのよフランソワ、こんな時にいちゃついちゃってさ。アンタしっかり受け止めないよ、全部アンタに掛かってんだからね」
 会長は呆れ果てた様子だった。面白くないと言った所だろうか、会長は話を進める。
「命預けるんだからね。しょうがないわねぇ、ホント……」
「心配するな、弟が居ても居なくても、ちゃんと受け止めるから安心しろ。会長が居なくなるのは、それはそれで寂しいものだ」
「そんな事言われても嬉しくないっての、ばぁか……」
 電話越しに聞こえてくる会長の声は、一緒に遊んでいた頃を思い出す。お互い成長すると、あまり会話をしなくしなって久しいが、園児の頃は公園ではしゃいでいた――あの頃の気持ちに引き戻されるようだった。
「時間が無い、会長……弟頑張れよ」
 そうして携帯の通話を切った。少しばかり手が震え、片方で腕を掴み、振動を押さえ込む。私はマットの中心部にて二人を迎える。こんなのも怖いと感じた事は今までに一度も無かった。
 弟は会長をおぶり、腰を落とす……そうして――弟は……飛んだ。
「おらぁぁぁあああ、やってやんよぉ!」
 弟と会長が飛んだ瞬間――爆破寸前だった学園最終兵器トゥールハンマーは咆哮をあげ、放電したパルスを吸収し、あらぬ方向へ放射していた。
「弟! 来い」
 私は身構えた。飛び込んでくる弟と会長のために、そして私のために。足場の悪いマットの上でどっしり腰を落とし、手を広げ待っていた。
「おおおおおおお」弟の叫び声、会長は口を一門に結び硬く閉じていた。弟たちは重力に従い、加速しながら私に向かって落ちてくる。時間にして数秒だろうか……しっかりと会長を背負い、そのままの形で降っていた。そう、私を信じきって体を預けきっていた。
「大丈夫だ、絶対に受け止めてやる」私はそう心にキメ腰を据える。
 ――ドンという衝撃。正面から弟を受け止めてマットに沈む、一度大きく跳ねて、又私たちはマットに深く沈み込んだ。そのままゆっくりとバウンドして、孤を描くようにマットの外へ放り出された。
「イテテテ……」
「痛ぇ……姉貴、大丈夫か?」
 弟の声、四つん這いになって腰を叩いていた私に、弟が話しかける。少し痛いが、弟が声を掛けれるだけの元気があって良かった。私は「問題ない」と返事を返し、座り込む。「はぁ」と息を吐いて、しばし放心状態になっていた。とりあえず今、実に思うところは死ななくて本当に良かったという事だった。
「ああ、会長……」
 のそのそと這って会長の傍によると、まるで漫画のように眼がペケポンの形になっていた。頬をそっと撫る。
「ゆっくりとおやすみ」と、会長の額を遮る前髪をすっと掻き分けて、私は立ち上がった。
 すると――――――何かが降ってきた。何だ? そう思い空を見上げる。
「姉貴ぃ、何か降ってる……」
 同じくして弟が空を見上げながら、呟いた。それら降ってくるモノを手に掴むと、コンクリートに破片だった。しかし、当学園のモノではなかった。確かに屋上は学園最終兵器トゥールハンマーと共に崩れ落ちてはいたが、グラウンドの中央まで瓦礫が降ってくるほど派手に爆破した訳ではない。振り返り学園を眺めると、やはり静かに崩れていた。
「姉貴! 見てみろよ、スゲーことになってんぞ」
「ああ?」
 背中を弟に叩かれ、指を向ける方に眼をやると、まさかの出来事になっていた。近くのツンデレ学園の校舎が、気持ちよく崩壊……していた。どうみてもツンデレ学園の校舎は無く、綺麗サッパリ校舎は吹き飛んでいた。
 上空より降り注ぐ校舎の残骸、きらきらと光が反射して輝いている。風に遊ばれて、雪のように白いコンクリートは星たちが数をなして注ぎ込んでいるようだった。
 胸ポケットにしまっていた携帯電話が、振動と共に着信音を響かせて私を呼んでいた。手に取り表面の液晶を確認すると“理事長春日お嬢様”となっていた。
「はい、フランソワです」
「春日だ。星の屑作戦確認した。流石は生徒会長、私が見越しただけの事はある。後の処理は任せておけ、とりあえず……そうだな、黒服をそちらに向かわせる」
「ありがとうございます」
「おつかれさま。穂種に頑張ったなと伝えてくれ、お前から言ってやった方が良いだろう。空となげやりには、こちらから連絡を入れておく。明日学園でな」
「お疲れ様でした」
「おつかれ」
 電話は切れ、ツンデレ学園を偶然にも爆破したことによって星の屑作戦は完了した。ここまでするつもりは毛頭なかったが、コレで私も、爆破好きマッドサイエンティスト春日お嬢様の仲間入りという事になってしまったか。まあいいか……
 気持ちは落ち着き、緊張の連続に少し疲れ、マッドに横たわった。空を眺めると、木の葉のようにゆらゆらと瓦礫が舞い降りていた。
「つーかーれーたー」と一言吐いて、手足をだらりと広げた。しかし休む暇もなく空から指示を仰がれて、身体を起す事になった。
「会長、黒服が到着しました。どう致しましょうか?」
「春日お嬢様から連絡があって、この後は黒服の指示に従うということだ。……そうだ、穂種はどうしている」
「穂種は彼氏と一緒に転がっている渡辺さんの弁当を集めて回っています」
 空へ手をさしサインをして「黒服との調整よろしくな」と、その場を後にした。ほどほどに進むと、足元に気絶する渡辺さんが居る。肩に掛かっていたトートバッグから弁当を取り出して、穂種に近づく。
「お疲れ、ほれ弁当」放り投げた。
「あーフランソワ! ありがとう」
「春日お嬢様が、お疲れ様ってさ」
「春日がぁ、そうか、今度塩化ビニールをあげよう」
 ふっくらとした頬が高揚して、穂種は笑顔になった。むしゃむしゃと、彼氏と一緒に弁当を食べていた。
 黒服に「やるだけやった。後の処理を頼む」と言って、心身ともに疲れた私は弟の手を取り、自転車置き場へと向かう。空も彼氏に携帯を掛けていた。なげやりは――いつのまにやら彼氏と共に、マットの上で寝転んでいた。皆に挨拶をすると、全員が「会長お疲れ様でした!」と手を振っていた。振り返る事なく私は背中越しに手を振った。
 兵《つわもの》どもが夢のあと、不毛ではなかったが闘いは終焉を迎え、弟と共に自宅に到着した。何も言葉を発せず、ただ深い眠りに着いた。弟と添い寝をし、何もせず、漢の暖かい肌を感じていた。
 ――了

  1. 2006/09/04(月) 00:02:29|
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