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仕事帰り

 時計台、朝六時待ち合わせ。この常識外れな時間に、律儀にも俺はそこに立っていた。駅前の噴水は循環した汚水を撒き散らすでもなく、ひっそりとときを待っていた。待ち合わせの時間を理由に断ることも出来たが、それ以上に興味がわいた。落ちてくる瞼を吊り上げる。
 くたびれた風体で現われた待ち人は、一見して年齢が分らない女性。荒れた肌を隠すように、ファンデーションをのせていた。付け睫毛をはめ目を大きく魅せていた、しかし眼の下がくすんでいる。茶髪の縦ロール、清楚を醸し出したフリルのワンピース、ほっそりと長い脚。
「ほたるちゃんですか?」時計台付近でキョロキョロと見渡している女性に声を掛ける。
「あっそうです」透き通った少女のような声色だった。
「とりあえず、カフェでも行こうか?」そういうと、「ごめんなさい、吉野家でもいいですか?」こんな娘が吉野家なんて行くのか、そう思いながら「いいよ、行こう」と近くの商店街に入った。
 ひょんなことから連れの紹介で、風俗嬢に会うことになった。連れは、彼氏が居ないから誰か紹介して欲しい、と風俗嬢に頼まれたそうだ。じゃあその連れでいいじゃないかと思うが、金が発生している相手は嫌らしい。どのみち金は発生すると思うが、気付かない振りをしたいんだろうと妙に納得した。
 風俗嬢の名は、ほたる。連れは源氏名しか知らない。お前、客かよ、あっそうか。店の前に着くと、自動ドアが開き、四人掛けのテーブル席に座った。
 彼女は豚丼大盛りを頼む。「よく食べるね」「あ、ハイ。忙しかったからお腹減っちゃって、全然食べる時間がなかったんですよ」彼女はお茶を飲み干した。「化粧、ぼろぼろだったんじゃない?」「え、よく分りますね」彼女は目を見開いた。「仕事帰りの顔にみえないから」。彼女は噴き出して「そんなこといっちゃ、意味ないじゃないですか。そういうことは黙っとくもんですよ」と、割っていない箸を挟んだまま手のひらを口に当てた。クスリと笑う。初対面の、押した引いたの談笑、店員が料理を運んできた。味噌汁を啜りながらチラリと彼女を覗いた、がつがつと肉を口へ運ぶ。こうみると風俗嬢には思えないぐらい普通に振舞っている、たぶんタイプが違うのだろう。
「源氏名で呼ぶのは嫌いなんだけど、ほたるちゃん」「ハイ?」彼女は丼から顔をあげた。「客だった彼氏にそんな仕事辞めてくれっていわれたら、どうする?」「どうしてそんなこと聞くんですか、あっ、風俗嬢とか馬鹿にしてます?」呆れた面持ちで彼女は見据えた。「馬鹿にはしてないよ、ホント。確かに職業差別はしてるけど、あっ良い意味でね。ニートっていう家事手伝いしてる廃人に比べたら、よっぽど、肉体労働で神経すり減らして金稼いでる女性って尊敬するし。だから、散々舐めてもらってた癖に舐めるのやめろといわれるのはどうかな、と」彼女はキョトンとした表情を浮かべた。次第に彼女はむずむずと頬を上げた。「面白いこというんですね、そんなのいわれたの初めてですよー。あーお茶お茶」飲み干した湯飲みを一瞥すると、彼女はその場から「お茶くださーい」と注文した。
「どうなんですかね? あたしの場合はお金になるからやってますけど……大好きでやってる娘も居るし、借金で仕方なくやってる娘もいますしね。どうだろう、好きでやってる娘は怒るんじゃないですか?」
「煙草吸ってる彼氏が彼女に煙草やめろって怒る感じ?」「そうそう! あんたも吸ってんじゃんって、違うか、吸われてんだ、ちんちん」彼女はクスクスと笑う。「借金の娘は喜んで辞めそー、あっ借金とかどうするんだろう、彼氏がどうにかするのかな、でも彼氏誤魔化してそう」。
「君は?」
「あたしですかーそうですねー。いまより稼げる仕事か、それより面白い仕事があれば辞めますね。それまでは辞めませんけど」
 食事を終え、会計を済ますと、彼女は「眠いから帰ります」という。二杯目のお茶を飲み干して、彼女は垂れ落ちる瞼を指で押し上げる。「今日はご馳走様でした。今度お店に来て下さいね。特別サービスしちゃいます」そういって、彼女からほたるにかわった。そういうことね、苦笑い。店を出ると、手を振ってほたるは駅へ歩き出す、振り向いてウインクした、「それでも、彼氏には嘘でも辞めて欲しいって、いって欲しいですね」。
 改札口に送ることもなく、ほたるは商店街を抜けていった。ほたるは負い目もないし苦労していると自己陶酔もしていない。大衆的ではないが普通の感覚、彼氏には嘘でも辞めてといって欲しい女の子。交われないな、と妙に納得した。
  1. 2007/02/20(火) 19:34:54|
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