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フランケンシュタインの花嫁

 御霊の友、真の親友、エログロ同盟のイトウちゃんが、素敵な短編を書いてくれました。カテゴリィが純文になりますので、どうぞよろしくお願いします。エログロ同盟はラノベを卒業した、ってことになってますので、チャレンジャー新人っぷりを見守ってくださいね。
 根底にある歪んだ愛情と欲情を鋭角に抉る作品、鮮やかに腐蝕を続けるイトウ節が、物語を綴っていく小説サイト。
 不定期更新中――小説解体


 フランケンシュタインの花嫁


 朝起きるのはいつもだいたい七時から八時くらいまでの間だ。
 それ以上早いと眠たいし、それ以上遅いと仕事に遅刻してしまう。それなのに今日は八時を過ぎているであろうに、身体が動かなかった。早く会社に行かなければ。気持ちだけが焦るがひどく身体が重く感じた。凄い眠たくもあったし、目を開けようにもカーテンの隙間から漏れる光が眩しい。どうしてこのように眠たいのだと暗中模索を続けるも、皆目見当がつかず、淡々と時間は過ぎた。
 何分経ったろうか、電話が鳴っていた。電話に出なければ……必死の思いで立ち上がろうとすると今度はすんなり身体が動いた。身体の上に圧し掛かっていた錘が消えたようだ。どうして今となってこんなにさっと起き上がれるのだ。金縛り、というやつだろうか。そういえば最近朝勃ちしねえな、そう思いつつ電話に出た。俺はこの電話に出るために金縛りのようなものにあってしまったのかもしれない。
 もしもし、そういった自分の声が寝起きで低く掠れていることに気がつき、唾液を飲んだ。この程度じゃ喉は潤わない。気休めだ。
「あたしだけど――」
 浅木千絵の顔が脳裏をよぎった。あいつか、とわずかに落胆した。運命的な電話の気がしていたので、ダリのような偉大な人物が息を吹き返して俺に電話をしてくれたというようなことがあっても良いはずだ。恋人に対しそんなふざけた妄想を持った俺はばかだろうか。徐々に千絵の輪郭がぼやけてきて、どんな顔だったか思い出そうとすれば逃げるように千絵の顔は遠くなり、わからなくなった。
「……起きたところ?」
「電話で起こされたところ」
「ああ、ごめん、なんかさ、雄治、うちに忘れ物してたから」
「忘れ物」
「うん、携帯、忘れてったでしょ」
「そうみたいだなあ」
「……あっ、そういえば雄治あんた今仕事の時間じゃん、何で家にいるの」
「寝過ごした、というか」
「ばかじゃん」
「今更何を……」俺は失笑気味に唇を歪めた。
「朝ご飯食べた?」
「まだ」
「うちに来ない? 私もまだ食べてないの、一緒に食べましょうや、卵焼き」
「三十分後くらいに着くと思う、身嗜みとかさ、色々あるから」
 電話を切る。
 浅木、千絵――。
 呟くと現実味を持ったが、顔は依然と浮かばない。
 溜め息を吐くと空気が白くなった。冬、か……まったくそのような気がしなかった。最近、空を見ていない。その所為かもしれない。季節の感覚が毎年薄くなっている気がする。窓を開ける。冷たい空気が寝起きの俺の格好では寒かった。元々寒かったのだが、それは我慢できる範囲だったから何もいわなかった。外の空気が室内の数倍冷たいことを承知していたが、実はそれ程でもないと高をくくっていたのが悪かった。寒さで肌に小さなぶつぶつ――浅木千絵はそのことを“さぶいぼ”といっていたが、本当にそういうのかは知らない――がうっすらと現れていた。毛穴もきっと閉じているに違いない。
 一度深呼吸をし、窓を閉めた。新鮮な空気が部屋に迷い込んできたからだろう、それは気持ちにも影響を与え、千絵の家に行くのが楽しみになった。
 会社に「休まさせていただきます」という連絡をしていないのを思い出し、慌てて受話器を握り、寒さで動きが鈍くなった手で番号を押すが、やめた。こんなに遅れてから連絡しても意味がないという諦念と、ばかばかしさが合わさった。
 洗面所にある小さなファンヒーターのスイッチを押し、暖かい空気が発せられるのを待つ。暖かい空気が出ると安堵した。ファンヒーターの低い唸り声に安心する。テレビでもラジオでもパソコンの起動音でも何でもいいから、音が鳴っていないと不安になる。身体を暖めると、次は着替えを始める。着ていたものを籠に放り込む。プラスチック製の安っぽいスケルトンの棚から下着と黒のジーンズ、無印の黒シャツ、模様が一切ない白い靴下を取り出す。これらをストーブの前でのろのろと着替えるのが好きだ。
 千絵は仕事でついた筋肉が良いという。そう誉められる度に白けていく自分が憎くなる。
 着替え終えるとつい癖で朝食を作ろうとしてしまい、小さなフライパンを持った手に苦笑した。いつもは朝食前に歯を磨かず、朝食後に磨くが、今回は千絵の家に行くため歯を磨く。準備が整うと誰もいない部屋にさよならし、千絵の家に向かって自転車をこぎ始めた。


「予想してたより早かった」千絵は簡素な机に朝食を並べながらいう。
「思ったよりすることなかったから」
「髪ぼさぼさなの」
「忘れてたんだと、思うな」
「身嗜みが何とかいってたのに」
「しょうがない、さ」
 味噌汁を啜る千絵の姿が理想的な日本人のように俺の目に映った。理想的な女性かはわからないが。俺が千絵の顔を忘れまいと彼女の顔を眺めていると、視線に気がついたのか、
「何?」
 と箸を動かす手を止めた。
「顔を」
「顔を?」
「……間違えた、何でもない」
「ふうん」
 茶色の髪にこれまた茶色っぽい瞳。埋め込まれたように大きい目に、小さすぎる口。鼻は高い。顎は削げ落ちたようにとがっている。赤いフレームの眼鏡が学校の先生みたいだ。もう少し控えめな眼鏡にすれば良いのに。癖毛なので前髪はカールして右に流れている。こんな印象的な顔をどうして忘れたのだろう。若年性アルツハイマー?
「可愛い、な……」呟くようにいうと、千絵は目を丸くして、
「気持ち悪いなあ、雄治、そんなこというなんてあんたらしくないよ、どうしたの、髪がぼさぼさだからキャラが違うの。それともキャラが違うから髪がぼさぼさなの。ああ、もう、あたし何いってだろ」
「いや、可愛いな、と」いっているうちに恥ずかしさが込み上げてきた。知らぬ間に貧乏揺すりをしていたようで気持ちを落ち着かせようと食事に集中した。
「ハロウィン、とっくに終わっちゃったんだよ、ね」話題をいきなり変える辺り、千絵なんだなあとしみじみ感じた。
「当たり前」
「雄治がご飯食べている姿が、なんか、フランケンシュタインの、あれ、えーと、わかんないけど、それっぽかった。顔色悪いし、余計に」
「有難う」
「あんたって変なところで有難う使うよね」
「嬉しい」
「大丈夫なの? 解熱剤ならキッチンストッカーに入ってると思うから」
「じゃ、お前がお茶飲んでる姿、山姥っぽい」
「何それ、ハロウィン違うし、凄い失礼」
「ほらほら、その引き攣った顔がな、たまらん」
「たまらん? 今度はオッサン? 最悪」
 最悪って、お前女子高生か。
 だんだん自分たちが交わしている言葉のばからしさに苛立ってきた。千絵は微笑している。無表情の方が可愛い。無愛想でいればいいのに。人形がほしい訳ではないが。
 たまらん、という言葉に性欲が高まってきたことをも表そうと試みていたのだが、さすがに、気づいてもらえなかった。回りくどいし、わかりにくい。もう少しストレートにいうべきだった。千絵の顔を見続けていると股間に血液が集まってきた。硬くなっていくものが気になって朝食に手をつけられなくなる。
 椅子から弾けるように立ち上がり千絵の手を引っ張った。痛っ、と千絵の声を聞いて自分は何て愚かで本能に忠実なことをしてしまっているのだろうと悲しくなった。悲しくなっても勃起が止むなんて有り得ない。ベッドに向かうっているのを知った彼女は暗黙の了解といったように俺に従ってくれた。こういうことに対し「良い恋人だ」というのはセックス目的かと誤解されるかもしれないが、やはり全ての始まりは肉体で心なんてものは結局のところ後からついてくるものだ。
「フランケン、シュタイン……か、今はじゃあ、狼男かもなぁ」
「違う、ますますフランケンシュタインに見えてきたわ」
「どうして」
「あたしは山姥なんかじゃなくて花嫁、だから」
 ベッドに到着すると、彼女を優しく寝かした。筍の皮を心を込めて剥いて行くように、衣服のひとつひとつを丁寧に脱がしていく間、彼女はこれからしようとしているものとは対照的に、とても落ち着いた表情でこういった。
「花嫁はいたのよ」
「フランケンシュタインにいたのか、花嫁なんか」
「いたの。そういたわ。いる」
 俺は手だけを動かし耳を傾けた。
「あたし花嫁になるの、もう少しで、フランケンシュタイン、の……」
「そうだな、なれるよいいな」
「なれるとかじゃなくて、なる」
「強制的か」
「フランケンシュタインに、人権はないの」
 荒くなる息は白い。暖房が入っていない寝室は冷たく、新鮮だった。千絵は眼鏡を外した。途端、その顔は輪郭を失い、白い息に溶けていく。家に帰ったら、もう、彼女の顔を思い出せないだろう。
「やっぱり、やめて」
「何を」
「これからやろうとしていること」
「遅いよ」
「やめて」
「遅いんだ……」
「やめなさい」
「嫌だよ」
 千絵は俺の手を振り払ってベッドから転がり落ちた。ぽかんとしていると彼女は裸のまま寝室を出た。裸のままベッドで興奮しようとしていた自分が惨めに感じられ、萎えた。
「はい」ドアが開く音とともに千絵の声が聞こえた。短い時間だったのにしっかりと着替えていて隙がなかった。朝食の残りをタッパーに詰めたものを俺に差し出した。レタスと卵焼きの半分に焦げ気味のウインナー、さすがにわかめだけの味噌汁は入っていない。整然とそれを差し出す千絵を見上げ俺は、
「何だよ」
「何だよって、見てわからないの」
「そんなことじゃない」
「これ持って帰って頂戴、せっかく作ったんだから捨てるのは勿体無いでしょう」
 言葉を発するのが面倒くさく感じられ、溜め息を吐いた。朝食の残りを受け取るのが負けを認めたような気がしたので、受け取らずに床に落ちていた衣服を着てそそくさと部屋を出た。
「さよなら」
 俺は答えなかった。
 フランケンシュタインの花嫁も、やはりフランケンシュタイン同様、既に死んでいるのだろうか。玄関を出る際、棚に置いてあった鏡に自分の顔が映った。化け物じみた顔をしていることにはっとして、逃げるように千絵のもとを去った。
         了

  1. 2006/11/21(火) 03:47:59|
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